「働き続ける」女性が多数派になった

——母という役割と、会社員としての責務。両方を真面目にこなそうとするほど、負担が増していく仕組みができているんですね。

 

朝生さん:

もちろん、今の2030代の若い世代は、男女ともにそういったマインドの人は減ってきているでしょう。ただ、今まさに子育て中の3040代にはまだまだそういった固定観念が残っているように見受けられます。

 

その一方で、独身・既婚に関係なく、働く女性たち自身の意識も大きく変化しているように感じられます。

 

具体的に言うと、「働き続ける」ことを大前提としている女性が確実にマジョリティになってきているんですね。

 

私はキャリアコンサルタントとして女性の就労相談に長年向き合ってきましたが、男女雇用機会均等法(1985年制定)ができた当時は、「自分は働かせてもらっている」という考えの女性が圧倒的多数派でした。

 

——専業主婦がスタンダードだった時代ですね。

 

朝生さん:

そうです。働く女性が仕事と家庭を両立させようと思ったら、それこそ必死に頑張らないととてもやっていけなかった。家事と育児を担いながら、「男並み」に働くことを求められたのです。ただ、現実にはすべての女性がそうできるわけではありませんよね。

 

それに、当時と今では、男女の就労状況は大きく変化しています。男性の収入も30年前と比べると減少傾向にありますし、非正規雇用の割合は男女ともにこの10年で増え続けている。

 

それならば出産・育児期間中は仕事を一時的にセーブして、細く長く働き続けていく。それが賢い選択肢だと女性側が考えるのは自然なことでしょう。問題は、そのための復帰コースを企業側が十分に用意できていないことにあります。

働く女性の課題はM字からL字へ

——子育てをしながら働く女性が昇給や昇進の機会が難しいコースに追いやられる、いわゆるマミートラックのように、当人の意欲とは関係なく、望む働き方ができない女性も少なくありません。

 

朝生さん:

かつて女性の雇用は「M字カーブ」と表されていました。20代に就業率が上がって、出産・育児期に落ち込み、その後に再び上昇してMの字形になることからそう呼ばれていましたが、最近では「L字カーブ現象」をどう是正していくか、という問題が起きています。(※1

 

内閣府「選択する未来2.0」 (https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/shiryo_01-3.pdf)より抜粋

 

朝生さん:

L字カーブ現象」とは、女性の年代が上になるほど、正規雇用率が低くなる現象を表します。20代後半には5割を超える正規雇用率ですが、その後はひたすらに下がり続けます。このグラフの線が、L字を横に倒した形になっているんです。

 

女性の場合、304050代と年代が上になるほど、正規雇用率が下がり、逆に非正規雇用率が上がっているんですね。

 

——つまり、育児などの理由でいったん正社員の道を外れると、再び同じ条件で雇用されるのが難しくなっている?

 

朝生さん:

産休・育休などの理由で生じたブランクが復帰や転職に不利に働く側面が大きくなる、ということはやはり否定できません。

 

その背景には、社会が変化するスピードが非常に速くなったことも関係しています。少し前まではメールでやり取りをすればよかったのがチャットツールに変わり、PCでしかできなかったことがタブレットやスマホでもできるようになってきましたよね。

 

そうすると仕事のコミュニケーションの仕方や、求められるスキル、顧客層までも、あらゆる場面で何かしらの変化が生じます。

 

一度、ブランクが生じてしまうと、そういった変化を個人の努力ですべてキャッチアップしなければならない。本来ならば企業側がそのあたりをバックアップすべきだと思いますが、ほとんどの企業は残念ながらそこまで手が回っていません。