働く女性の慢性的な睡眠不足について、社会的背景や年齢からくる体の変化など、その課題や解決策を考えてきたオピニオン企画。
最終回は、小さい子どもの家庭を悩ませる“子どもの夜泣き“問題をとりあげます。子どもが夜中ひんぱんに起きてしまうと、親も睡眠不足状態が続くため、喫緊の課題ともいえます。日本初の夜泣き外来を設立した、医師の菊池清さんにその原因や対策について話を聞きました。
水族館に行ったら、夜泣きするようになった?
——最近、先生のもとへ訪れた患者さんにはどんな相談がありましたか?
菊池先生:
水族館に行ったことで突然夜泣きが始まったというお子さんがいました。水族館は暗く、怖いと感じる子どももいるようで、暗い場所が苦手になり、夜泣きの原因になったケースです。大人が楽しませようと“良かれ”と思った行動も、子どもにとっては思いがけず恐怖体験になっていた一例ですね。このように、子どもの夜泣きは、個人の経験や個人差があり、一概にいえないのが難しさの一つです。
——そもそも、子どもが夜、起きて泣いてしまうことは、すべて夜泣きなのでしょうか?
菊池先生:
生後6ヶ月から4歳にかけて、眠り続ける力がつく時期にもかかわらず、夜間に泣き出し、眠れずぐずり続ける状態を「夜泣き」ととらえます。
そして、夜の眠りだけでなく、それに伴う日中の辛さ、例えば「日中の遊びを楽しめない」「機嫌が悪くなる」なども同時に起きることが、医学的に睡眠障害の状態にあるといえます。それが、病気でもないのに1週間に3日以上の割合で3か月程度続く場合、“ひどい夜泣き(乳幼児慢性不眠障害)“の目安になります。
——なぜ、夜泣きは起こるのでしょうか?
菊池先生:
原因は体質要因と環境要因があります。体質要因として、「眠り続ける力が弱い」「目覚め続ける力が弱い」「眠りを妨げる状態のある体質」の3つがあります。それぞれどういうことか説明します。
夜泣きの体質要因
「眠り続ける力が弱い」
脳の中にある眠りのシステムと目覚めのシステムのバランスで、目覚めのシステムに傾きやすい状態を指します。規則的な生活が送れていないことや日中活発に動かないため、眠りのシステムが崩れて、夜間、起きてしまいがちになります。
「目覚め続ける力が弱い」
こちらは逆に、目覚める力が弱く、眠りのシステムに傾きやすい状態です。目覚めのシステムが未発達のためかもしれません。
「眠りを妨げる状態の体質」
これは、呼吸器系統の弱さで息苦しく眠れない体質、皮膚のかゆみなどで眠れない体質、感覚が過敏で眠れない体質(光、音、室温、触感など)があります。
——これらに対して、どういった対策をたてれば夜泣きはなくせますか?
菊池先生:
じつは、上記で挙げた「環境要因」は、眠りのシステムと目覚めのシステムにリンクしています。環境要因とは、音・光・室温・日中の活動などの生活環境です。この生活環境には、24時間周期の明暗(昼夜)リズムに合わせた体のリズム(概日リズム)が影響します。体内時計が体のリズムを作ります。つまり、日中は活動できる体になり、夜は眠れる体になって脳と体の成長とメンテナンスが行われます。
大人にも当てはまることですが、体内時計によって昼と夜で異なる体がつくられます。昼の体でしっかり活動すると脳内に睡眠誘発物質が増えて、眠りやすくなります。夜の体で眠ると、良質の眠りが得られます。
体内時計による体のリズムを良くするためには、19時から翌朝7時までの夜間は「暗くて静かで穏やかな環境」を維持し、眠る時刻・起きる時刻・食事の時刻・入浴の時刻を毎日できるだけ同じようにすることが大切です。体のリズムが安定しないと、しっかり眠れなくなり、途中で起きてしまい、夜泣きをすることになります。