共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

有給休暇取得率の低さが課題とされる日本企業。そんな中ソニーでは、取得理由によって年単位で休職できる「フレキシブルキャリア休職制度」を導入。社員が休暇を取り、社外でさまざまな経験を積みスキルを磨くことにより、イノベーションや気づきがもたらされると期待しています。

 

ソニーはハードウェアだけでなく、ゲーム、映画、音楽など多様な事業をグローバルに展開しています。そんなソニーだからこその、先進的でユニークな人事制度。その実態について、人事企画部の竹田さんと制度を利用した柴田さんにお聞きしました。

 

ソニー株式会社・エレクトロニクス人事部門に所属する竹田恭子さん。ダイバーシティ&インクルージョンの推進を中心に、働き方改革、両立支援を行い、制度企画からセミナー運営まで幅広く担当。4歳の女の子の母として仕事と家庭の両立にも奔走中。

 

ソニー株式会社・ブランドマネジメント室に所属する柴田さくらさん。ソニーグループ全体のブランドマネジメントをさまざまなグループ会社と関わりながら推進。社内のソニーブランドに関する啓発活動も担当。12歳と10歳の男の子を育てる母でもある。

 

多様なキャリアを応援するために必要なものはどんどん制度化する

——「フレキシブルキャリア休職制度」を採用するに至った背景を教えていただけますか?

 

竹田さん:

制度ができる前から、キャリアアップを目的とした留学のために休職したり、パートナーの海外赴任で退職したりするケースがけっこうあったんです。そういった事例が増えてきたので、会社として社員をサポートできるよう制度化しました。「制度化してほしい」という声が上がっていたわけではないのですが、多様性のあるキャリアを応援したい、ご家族の事情とはいえ、積み上げられてきたキャリアを断絶してほしくない、という思いもありました。

 

——制度化の声が上がる前に会社側が動いたのですね。制度内容について具体的に教えてください。

 

竹田さん:

制度は2種類あります。1つ目は、配偶者の海外赴任や留学に同行するケースです。最長5年休職ができ、ソニーでのキャリアを継続することが可能です。2年以上勤務していて、配偶者の方の赴任に確証があれば誰でも利用できます。異文化生活を通じた知見の拡大や、語学・コミュニケーション能力の向上は、復帰後の日々の業務に生きてくるものと期待しているので、休職中の課題は特に設けていません。

 

2つ目は、仕事に生かせる専門スキルを身につけるために、国内外に最長2年私費で修学するケースです。修学にかかる初期費用は最大50万円まで会社が支払います。

 

どちらも休職期間中に給与は出ませんが、社会保険料は会社が支給しています。これまでの利用者数は配偶者同行が約50名、私費就学が約20名。留学先は国内・国外が半々、職種は事務系と技術職系が半々、年齢は2040代と、さまざまな人が利用しています。

 

普段から社員とのコミュニケーションを積極的に取り、困りごとや要望の吸い上げに尽力する竹田さん。

 

——新しい制度をつくる場合、賛成派と反対派の意見が割れてなかなかうまく機能しないという悩みも聞きますが、その点はいかがでしたか?

 

竹田さん:

特に滞りなくスムーズに進んだと思います。「配偶者同行の休職期間が最大5年は長すぎるのでは?」という意見が出ましたが、「社内の平均的な海外赴任期間の例と照らし合わせての年数です」と伝えたところ、納得してもらえました。

 

ソニーでは創業以来、“自分のキャリアは自分で作るもの”という考え方が浸透しているからかもしれません。また、リーディングカンパニーとして仕事と家庭生活の両立を重視しているので、その支援を拡充する今回の制度化にはどの社員も前向きでしたね。

 

帰国後の不安がないから充実した日々を送れる

——柴田さんは配偶者同行として「フレキシブルキャリア休職制度」を利用し、3年間アメリカのサンフラシスコ近郊で生活されていたそうですね。初めから制度を利用するつもりだったのですか?

 

柴田さん:

いいえ。制度が出来たのは夫の海外赴任が決まる1年ほど前だったので。社内のお知らせで存在自体は知っていたのですが、自分が制度を利用できるかどうかまではわからず、退職する可能性も覚悟していました。

 

というのも、当初から夫に単身赴任してもらうつもりはなく、家族で同行したいと思っていたんです。実は私が帰国子女で、海外生活でたくさん刺激を受けました。その経験ができてよかったと感じていたので、子どもたちにとってもきっといい経験になるだろうと考えていて。当時、長男は小学3年生、次男は1年生。夫の任期は2〜3年で、長男の中学受験の前に帰って来られるタイミングだったこともあり、迷いはありませんでした。

 

上司に退職覚悟で夫の単身赴任のことを伝えたところ、「こういう制度があって、あなたは条件もクリアしているから、利用してまた戻ってくればいいよ」と提案してもらえて。会社を辞めずに同行できるなんて、すごくありがたいと思いました。

 

社屋上層階にあるフリースペースは、自由に使用できる。座り心地のよい椅子でコーヒーを飲みながらリラックスすることも。

 

——戻って来られる場所があるというのは心強いですね。もし退職したとしたら、帰国後の転職探しへの不安がつきまとってしまいそうです。

 

柴田さん:

本当にその通りだと思います。帰国後の心配をする必要がないので、「今」に向き合うことができる。すごくいい制度だなと思いますね。

 

——「今」に向き合うとは、具体的にどういったことでしょうか?

 

柴田さん:

子どもたちにしっかり向き合おうと心がけました。2人とも英語がほとんどできないので、私はそのフォローをちゃんとしようと。小学校では親のボランティアが奨励されていて、先生の手伝いをしたりしながら子どもの様子を見ることができるので、毎日のように学校へ行きましたね。

 

実は、次男が最初の1年間、ほとんど教室で話さなかったんです。私が近くにいることで、次男が安心できる時間がつくれたらいいなと思って。そのおかげか、2年目からは自分から積極的に話すようになりホッとしました。こんなふうに子どものあるがままの状態をしっかり観察し、ケアすることで、子どものことを前よりも深く知ることができたのではないかと思います。

 

現地に行ったからこそ学べたこと

——2年間海外で過ごすことで、今後の仕事に生かせるスキルなどは身につきましたか?

 

柴田さん:

いろんなことを収穫できました。たとえば英語のスキル。小学校のボランティアでは、先生や保護者と毎日英語で話すので、会話力が磨かれましたね。文法や単語だけでなく、アメリカの人はこういうポイントを気にするんだとか、こういうふうに話すと物事が進めやすいんだとか、現地でないとわからないことを肌身で感じることができました。

 

小学校で行われたハロウィンのイベントの様子。柴田さんはゲームコーナーのボランティアとして参加。

 

——日本にいてはなかなか学べないことばかりですね。

 

柴田さん:

はい。滞在先がベイエリアというのもよかったですね。アメリカで勢いのあるIT企業が集まる場所で、ソニーに関連するような企業が多く、保護者でも勤めている人が多かったので、会社の最新ニュースなどを見聞きでき新鮮でした。また、子ども向けのツアーやオフィス見学もやっているので、興味本意でいろいろと行きました。ホームページを見ているだけでは伝わってこないことを実際に見られる、貴重な経験でした。

 

帰国後はブランドマネジメントの仕事を担当していて、企業のロゴや効果的なブランドの発信の方法などにも関わっています。アメリカでリアルに体験したことと直結する仕事なので、学んだことをフルに活かしていけたらと思っています。

 

——2年間のブランクを経て復職し、仕事の意欲などに変化はありましたか?

 

柴田さん:

せっかくこの制度を利用したからには、そのぶん頑張りたいという気持ちは強かったですね。2年間仕事を離れることは自分の中で大きなチャレンジでしたが、子どもにしっかり向き合えたので、今度は仕事を精一杯がんばろうと、自然と思うことができました。

 

育休休職と同じで、ブランクがあるからといってスキルがゼロになるわけではない。むしろ、いろんなことを学ぶことができました。もっと多くの人がこのチャンスを利用するといいと思います。

 

 

休職=キャリアの低下ではなく、キャリアを広げる機会ととらえるソニー。このような新しい視点が、新しい技術やサービス開発への原動力になっているのかもしれません。

 

次回は、今話題となっている不妊治療やがん治療への助成をおこなうソニー独自の取り組み「シンフォニープラン」についてご紹介します。

 

 

取材・文/小松﨑裕夏 撮影/林 ひろし