睡眠が不足し家事もままならない女性

「日本人女性の睡眠不足」が体や心に及ぼす影響と、その対策について考えるオピニオン特集。

 

前回の記事「

なぜ、日本人女性が世界で一番睡眠不足といわれるのか

」では、睡眠研究家の西川ユカコさんに、日本人女性の睡眠時間が世界最低水準となってしまった、社会的背景について伺いました。

 

では、なぜ睡眠不足が社会的問題となっているのでしょうか?体に良くないことは分かっていても、具体的にどんな悪影響を及ぼすのか、ピンときていない人も多いのでは。そこで今回は、睡眠不足によって引き起こされる心身のさまざまな不調について、世界の最新論文や研究データをもとにお伝えしていきます。

 

 寝不足のせいで、日中も「ほろ酔い状態」になる!?

——そもそもなぜ睡眠不足はダメなんですか?日中眠いのはつらいかもしれませんが、そこまで深刻な問題ではないような気がするのですが…。

 

西川さん:

まず、睡眠時間が1日2時間足りない状態が2週間続くだけで脳が“弱度酩酊状態”を引き起こすと言われています。例えば1日7時間の睡眠が必要な人が5時間しか眠っていない場合などです。弱度酩酊状態とは、お酒を飲んでほろよいになり、ぼんやりとしている状態のこと。平日のバリバリ働かなくてはならない時間帯に、ほろよい状態になっていては大問題ですよね。

 

前回もお伝えした通り、2664歳の人の理想的な睡眠時間は79時間。しかし、実際に7時間以上の睡眠時間を確保できている人は、3割にも満たないことが厚生労働省の調査でわかっています。

 

つまり、約半数の働くママたちは、毎日ほろよい状態で仕事や育児をしていることになるんです。しかも、感覚が麻痺して自分が睡眠不足であることに気づいていないことが多いのですが、実は既に睡眠負債による心身の不調に侵されているケースも少なくありません。

 

——たしかに、ほろよい状態で仕事をしていたら、効率も悪くなりますね。睡眠負債とは、どういった症状なのでしょうか?

 

西川さん:

日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、体や心に悪影響を及ぼす状態です。睡眠負債がたまって脳が弱度酩酊状態になると、脳の前側(耳の前側からおでこあたり)に位置する前頭前野の働きが悪くなります。

 

前頭前野は、脳の中で思考と判断力を司っていて、人間が最も人間らしく生きるために必要な場所と言われており、働きが悪くなると主に次のような症状が現れます。

 

  • やる気が出なくなる
  • 記憶力が低下する
  • 物事を論理的に考えられなくなる
  • 発想力が低下する
  • 感情をコントロールできなくなる
  • 判断力が落ちる
  • 注意力が散漫になる

 

——言われてみれば、心当たりがたくさんあります。イライラして夫に八つ当たりをしたり、子どもが少し泣いただけで意味もなく悲しくなったりするのも、睡眠不足のときに多いような…。

 

西川さん:

そんな症状は、まさしく前頭前野の働きが低下している証拠です。ほかには、SNSの「いいね!」の数に振り回されて一喜一憂してしまうなども挙げられますね。睡眠が足りないと自分で物事を判断できなくなるので、必要以上に周囲の目が気になるようになってしまうんです。

 

まさか本人はこれらが睡眠不足のせいだとは気づかないので、仕事も育児もうまくいかない、私ってなんてダメな人間なんだろうと、どんどんネガティブな思考に陥り、自己肯定感が低くなってしまう傾向にあります。