共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

コロナ禍で企業がリモートワークに移行し始める中、様々な課題も表面化しつつあります。その解決の糸口になるのが「ワークライフブレンド」という発想です。

 

ワークライフブレンドを推進する株式会社キャスターの勝見さんに引き続きお話を伺っていきます。

 

 

PROFILE 勝見彩乃さん

PR/人事 執行役員。創業期のアトラエに参画し、求人サイトgreenの立ち上げや人材紹介事業に従事。その後入社したワークスアプリケーションズでは、人事として新卒・中途・海外大生採用を始め様々な採用に携わり、プロジェクトリーダーを務め、年間数千名規模のインターンシップ・数百人規模の採用に貢献する。ベンチャー企業での人事・広報部の立ち上げを経て、2017年に株式会社キャスター入社、2020年1月執行役員に就任。人事・総務部、PR部を統括し、リモートワークの組織作りと普及に奔走。パラレルワーカーでもある。

 

──キャスターのメンバーは全国にいらっしゃるんですよね。どんな方が働いているのですか?

 

勝見さん:

現在、全国45都道府県に約700名のメンバーがいるのですが、女性の割合が圧倒的に多くて、9割近くを占めています。ただ、子どもがいる人が多いかというとそうでもなくて、独身、既婚(子どもなし)、既婚(子どもあり)の割合はだいたい同じくらいです。特に女性に注力して採用をしているわけではないのですが、当社にご興味をお持ちいただく方は圧倒的に女性が多く、かつ地方にいらっしゃる方が多いんです。やはりご家庭の事情で地方に行ったり、仕事で何らかの制限を受けている女性が多いということと、地方で女性向けの求人が少ないということを表しているのではないかと思います。

 

当社は創業からちょうど7年目に入ったところなのですが、だんだんリモートワークのフェーズが変わってきたと感じています。「常時、場所を問わず働くことができる」ことをフルリモートワークと定義付けていますが、フルリモートワークが定着すると、従業員の行動に変化が起こるんです。好きな地域に引っ越したり、生活を充実させるような行動が出てくる。上の図でいえば、フェーズ4から5に移行した段階ですね。

 

私も以前は通勤時間のことを考えて都心部に住んでいたのですが、入社して12年くらい経ってから好きなマリンスポーツができる湘南に引っ越したんです。他にも、トレイルランニング*が趣味で高尾山の麓に引っ越した人や、ワーケーションをしていろんな海外や日本全国を回りながら仕事をしているメンバーもいます。それぞれが好きな地域で働くことができるというメリットを活かし、生活を充実させているんです。


*トレイルランニング…林道、砂利道、登山道などを走るアウトドアスポーツ。

 

──働く場所はどこでもいいんですか?例えば今日は自宅、明日は近所のカフェ、来週からは旅先で仕事するとか。

 

勝見さん:

いつもと違う場所で仕事をする時には申請が必要なのですが、基本的には自由です。なので、今日は家で仕事して、明日は近くのカフェというのも大丈夫です。

 

今はコロナのこともあるので自宅を仕事場にしている人がほとんどですが、ワーケーションを好きにやっているメンバーや、海外や日本各地を旅しながら仕事をするメンバーもいます。私も旅が好きで、特に離島が好きなので、これまで奄美大島や長崎県の五島などに行って仕事をしていました。長期休暇とセットで行くことが多くて、例えばゴールデンウィークの中3日が平日だったら、その前後の休みの日は旅行を楽しむ、平日は昼間に普通に仕事をして、夜は旅先で美味しいものを食べたりとか、朝市に行ったりというように過ごしていました。

 

──ワーケーションは憧れますが、仕事をしている間、ご家族はどうされていたんですか?

勝見さん:

五島には夫と子どもと3人で行ったんですけど、現地の自治体がやっているワーケーションプログラムに参加させていただいたんです。コワーキングスペースが併設されているホテルがあって、一時保育も利用できたので、昼間は仕事に集中することができました。

 

もちろん、ワーケーションは働き方とか暮らし方のひとつの選択肢ではありますが、強制するものではありません。ワーケーションって休日も仕事をしなければならないと勘違いされることもありますが、あくまで仕事は仕事、休みは休みなので、そこを切り分けた上で一緒に楽しむことができる新しい働き方だということは知っていただきたいなと思います。

 

──代表の中川氏が「これからはワークライフブレンドという考え方が大事」と話されていましたが、具体的にはどういうことなのでしょうか。

 

勝見さん:

リモートワークが浸透していくと、「ワークライフバランス」といって完全に仕事とプライベートを切り分けることって難しいと思うんです。でも、生活環境に強制的に仕事が入り込むというのも良くない。そこをうまくブレンドしていく状態が必要だと思っています。

 

例えば、仕事専用の部屋を用意するとか、いい椅子を買うというケースがあると思うんですけど、誰もができるわけではありませんよね。いいことはわかるけれども強制はできないし、無理な人もいる。そういうことを踏まえた上で、無理のない形でワークとライフをブレンドしていくことが大事だと思うんです。

 

そのためには、会社としては自由度が高い人事制度を整備することが大事だと思っています。「○○してはいけない」という禁止事項で従業員を縛るのではなくて、「○○してもいい」と緩める方向にしていくことで、働く自由度が高まったり、ブレンドしやすい状態をつくることができると思っています。そういう自由の余地を広げていけるといいと思います。

 

──確かに、「○○してもいい」と選択肢が増えることで、自分にあった働き方を選択できるようになりますね。

 

勝見さん:

当社では働く場所だけでなく、フレックス勤務や雇用形態の変更、副業・複業も自由です。例えば私の場合は、基本的には9時に始業して、いったん16:00に退勤し、子どものお迎えや一緒に過ごす時間をとった上で夜に少し仕事に戻るという働き方をしています。緊急時以外は中抜けしている間はチャットを開かないようにしていますし、その時間は連絡が取りづらくなることはメンバーも知った状態で対応してくれています。

 

私の働き方は一例ですが、部門ごとに定められた就業時間があるので、そのサービス提供時間内でフレックス勤務を利用してもらっています。

 

子どもが発熱して保育園から呼び出しがあったとか、自分の体調が優れない時などは一般的な会社と同様、上長に話して仕事の調整をしてもらうのですが、物理的な移動がない分、調整はしやすいですね。例えば、午前中だけ有給にして病院に行くとか、お昼の休憩時間を1時間長くして授業参観に行くという人もいます。

 

もう少し時間に柔軟性を持たせたい場合は、部門での募集状況にもよりますが別の部門に異動するとか、雇用形態自体を変えることも可能です。つまり、雇用契約から業務委託契約に変えるということです。基本的には本人の希望を聞きながら業務量などは調整しますが、業務委託だからといって仕事内容や報酬を大きく変更するということはありません。もちろん報酬は成果での判断となりますが、雇用契約時の給与をベースに考えています。

 

──いろんな働き方が選択できる環境であれば、子育てをしながらでも自分のキャリアを諦めずに両立していけそうですね。

 

勝見さん:

そうですね、リモートだから時短せずにフルで働けるようになったという人もいますし、時短で働く人もいますが、当社には時短だからこういうポジションに上がれないという制約が一切ないんです。もちろん年齢や性別、働き方による制限もありません。

 

「リモートだからできない」ということがないので、仕事をしていく中で挑戦したいことにどんどん挑戦してスキルアップしていく人もいます。ステップアップに関しては、これまでは部門ごとに任せていたのですが、よりわかりやすくするために全社共通の等級制度を作って、これができるようになったらこの等級になるという指針の提供を9月からスタートしました。

 

──リモートワークをする上で会社として工夫されている点はどういうところですか?

 

勝見さん:

疑心暗鬼を防ぐということですね。相手の姿が見えないことへの不安って誰しもあると思うので、それをちゃんと解消するためにプロセスと結果の「見える化」をするようにしています。具体的には、業務上のやりとりはすべてチャットワークを使っていて、上長はメンバーの仕事の状況を常に把握できるし、キャッチアップすることもできます。システムの中でタスク管理もされていて、その中で生産管理もしています。

 

リモートワークでサボるんじゃないかって懸念される方もいらっしゃるんですが、懸念すべきはどちらかというと働きすぎの方です。なので、労務管理・勤怠管理はきちんとしていますし、事業を運営する上で、例えば18時以降はお客様に連絡しないようにするというようなルールを部門ごとに作って、働き過ぎを防止するようにしています。

 

──最後に、これから力を入れていきたいことなどあれば教えてください。

 

勝見さん:

「○○しても良い」と緩める方向、自由をメンバーに与えることが働きやすさに一番つながっていると思うので、そういうメッセージをメンバーに対してもっと発信していきたいと思いますし、逆にアイデアを募れると面白いなと思いますね。

 

・・・ ついこの間までは、仕事かプライベートか、どちらかを選ばなければならない時代でした。しかし、今はどちらも手に入れることができる時代なのだということがわかりました。

 

仕事をしながら、自分らしく生きる。そんな新しい時代の価値観に寄り添える会社が求められているのです。

 

取材・文/田川志乃 取材協力/株式会社キャスター