CHANTOWEBで8月に展開していたオピニオン特集「#発達障害の子どもを知る」。個人の多様性を認め合うこれからの社会に必要なテーマだとして特集を組みましたが、公開後にたくさんの反響をいただきました。特集の中で「発達障害のある子どもを生きにくくするのは、周りの人間。障害の原因探しは専門家に任せて、目の前の子ども自身を受け入れることが大切」と話してくれた実践女子大学教授の塩川宏邦さん。私たちが目の前の子ども自身を受け入れるためには、発達障害のある子どもについてさらに知る必要があると編集部は考えました。そこで、読者の声を元に塩川さんと、発達障害のある息子を育てるそらさんに追加でインタビューをお願いしました。

 

医学的な視点、育児中の母親の気持ちについて特集記事からさらに深掘り。読者が知りたいことを、Q&A方式にまとめてお届けします。

塩川さんに聞く「#発達障害の子ども」10のQ&A

Q.1発達障害は遺伝するのでしょうか

 

A1.遺伝子レベルの情報が遺伝します

発達障害そのものが遺伝するのではなく、発達障害をきたしやすい脳の特性、それを引き起こす脳細胞レベル、遺伝子レベルの情報が遺伝します。

 

Q2.どの時点で診断されるのでしょうか。未就学時の検査で診断がつかなければそれ以降は障害ではなく、しつけの問題となりますか?例えば中学生になってからわかるケースもあるのでしょうか

 

A2.年齢を重ねてからわかる例もあります

早ければ1歳6か月健診で気づかれ、2歳~3歳で診断が確定しますが、特徴的な徴候がみられない場合(ことばの遅れがない、集団にそれなりに適応している)は、小学校高学年や思春期になり、より高度な対人コミュニケーション能力が求められるようになって不適応をきたす例もあります。

 

少年鑑別所の経験では、鑑別所に入所して初めて発達障害とわかったというケースが多くみられました。


Q3.少年鑑別所で初めて発達障害がわかるケースもあるそうですが、そういった子どもに共通する点はありますか

 

A3.障害の有無に関わらず、非行は環境要因・教育の失敗によるものです

発達障害のある非行ケースに共通しているのは、「適切な支援がえられなかった」「虐待にあった」「いじめにあった」「地域社会から疎外された」経験です。


虐待は身体的虐待ではなく「必要以上の叱責」「さげすむような言動」といった心理的虐待が多く認められます。非行は、発達障害の有無に関係なく、100%環境要因・教育の失敗です。

 

Q4.発達障害のある子どもへの叱り方はどうすればいいのでしょうか

 

A4.発達障害のない子どもへの叱り方と同じです

ダメなことはダメときちんと叱ること、その上で何がダメなのか、どうすればいいのかを教え、次にうまくいったらそこでほめてやる。「叱る」はここまでがワンセットです。ダメ出しするだけではダメです。

 

Q5.例えば「ごめんなさいをちゃんと言いなさい」と叱る場合、頑として応じない子どもがいます。これを認めて次に進むタイミングはどこにあるでしょうか。

 

「ごめんなさい」を言うまで食事を与えない、は虐待につながるかもしれませんが、言ってしまう保護者は少なくないと思います。3分睨み合いをしてダメなら切り替えて次に進むなど具体的に教えていただけると、発達障害のある子の周りの大人が救われます。

 

A5.その子どもの気持ちを知ろうとすることが大事です

「ごめんなさいをちゃんと言う」という行動をゴールにしないことだと思います。謝罪のことばを言えるのは確かに生活する上でのスキルですが、「ごめんなさい」を言えばすべてがおさまってしまうという誤った学習をさせてしまうことになります。


ごめんなさいを言わせるためだけにいろんな対応をするのは、犬に芸をしこむのと同じことになってしまいますので、何か違う謝罪のしかたを教える、あるいは一緒に考える、そのためには「なぜその子がごめんなさいを言うことを拒否しているのか」を子どもの立場にたって知ろうとすることから始めることだと思います。

 

 

Q6.教育の場で「発達障害」の理解が進まないのはなぜでしょうか。例えば、インクルージブ保育(子どもの年齢や国籍、障害といった「違い」をすべて受け入れる保育)は、なぜ広まらないのでしょうか

 

A6.現状でもかつてよりはましになりました

教員や保育士になるための教育課程を点検する必要があると思いますが、教員や保育士になるために学ばなければならないことが多すぎること、教員や保育士になってからやらなければならないことが多すぎることが問題です。いろいろなことを教師や保育士に求めすぎていると思います。

 

Q7.教育の場で「クラスメートが補佐するお世話係」の負担が重すぎるという話があります。「お世話係制度」の意味は何でしょうか


A7.クラスメートのお世話係は、有害無意味です

実施しているところはすぐにやめさせて欲しいです。

 

Q8.お世話係には具体的にどんな害がありますか。発達障害のある子の劣等感を深める、お世話係が小さな先生のようになって威張る、などクラスメートとの関係がいびつになる、という理解でいいでしょうか。真面目な子ほど、他のクラスメートと交流する時間が減って、不公平に感じるなどといったことも聞きます

 

A8.逆にメリットが一つもありません

何かメリットがあるのでしょうか。単に学校組織の怠慢だと思います。メダカやアサガオのお世話とはわけが違います。

 

Q9.発達障害と診断されないまま社会人になる人も多いと聞きます。社会に出てから苦労するパターンにはどのようなものがありますか


A9.コミュニケーション能力がないまま高学歴になると実社会で苦労します

ことばの遅れや知的発達の遅れがないケースで、コミュニケーション能力が乏しいが学校の成績は優秀で高学歴になり、自己愛が肥大してしまった人は非常に苦労すると思います。学校の勉強ができるという価値観だけで評価されてしまうことがよくないと思います。


Q10.グレーゾーンな大人と接する時の心得は(同僚、子どもの担任など)

 

A10.こちらの思い通りにはならないと心得てください

支援が必要な人なのだと思うこと、これまでやってきたことは修正がきかないしこちらの思惑通りにはならないこと、そのうえで適切な距離を保つことです。

 

PROFILE 塩川宏郷さん

実践女子大学 生活科学部教授。1962年、福島県生まれ。87年、自治医科大学卒。福島県内のへきち医療に従事後、自治医科大学附属病院小児科、とちぎ子ども医療センター心の診療科、東ティモール大使館、東京少年鑑別所、筑波大学を経て2018年から現職。専門領域は発達行動小児科学、小児精神医学。『もしかして発達障害? 子どものサインに気づく本』の監修を務める。