名前から浮き彫りになるジェンダー規範
なぜわが子にはジェンダーを感じさせない(ように思える)名付けをしたのか?周囲の友人たちにその理由を尋ねると、さまざまな反応が返ってきました。
女子として「美」を望まれた反動から
「私自身もそうなんですが、名前に“美”がつく女子が多かった世代なんですね。裕美、恵美、美奈、美樹とか。親としてはそんなに深い意味を込めたわけじゃないんだろうけど、『女にはやっぱり美しさが求められるのか』『中身より外見で評価されるのか』ということがずっと引っかかっていて。娘にはそういう重荷を感じてほしくなかったので、女らしさをあまり感じさせないような名前をつけました」
「美しく育ってほしい」という願い自体は誰に否定されるものでもありません。ただ、「なぜ女の子にはそう願うのか?」を掘り下げていくと、「女は美しいほうが生きやすい」という親世代のジェンダー観が透けて見えることも確か。男の子の名前に「美」が使われることが圧倒的に少ない非対称性からも、それは明らかです。
男の子がひらがなの名前は変?
「ジェンダーレスな名前を」という意識はまったくなかったけれども、小学生の長男と次男、ふたりに揃って「ひらがな」の名前をつけた知人もいます。
「長男を妊娠中に、好きな響きの言葉を名前の候補として考えたとき、ひらがなのほうがしっくり来たんです。ひらがな=女の子のイメージがありますが、よく考えてみたら男の子だからってひらがなの名前がだめだなんて決まりはないですよね。夫も『そう言われてみればそうだね』とあっさり納得してくれました」
夫婦間ではすんなり合意できたものの、「生まれてくる息子にはひらがなの名前をつけるつもりだ」と両実家に伝えたところ、どちらからも「男の子にひらがななんて変でしょ!」と大反対されたそうです。
「でも『男の子の名前がひらがなだと、なにが変なの?』と聞き返すと、『だって昔からそういうものだから』『やっぱり男の子だと、なんかちょっとね……』とモゴモゴ言うばかりで(笑)。ちゃんとした反論の理由なんてないんですよね。そこは私たち親の権利だと思って、さらっと押し切りました」
3年後に次男が誕生したときも、ひらがなの名前をつけることを迷わなかったそう。
「小学生になった今も『男の子なのに、名前がひらがななの?』と時々驚かれますが、男の子でひらがなだと目立ってわかりやすいし、逆にいいですよ。ちなみに、息子たちの過去のクラスメートには、両親ともに日本人で海外にルーツはないけれども、カタカナの名前の男の子もいました。ユウくん、レイくんとか。軽やかな感じが本人たちに似合っていましたよ」
娘にひらがなの名前を、息子に漢字の名前をつけた筆者も、この回答にはハッとさせられました。
なぜ自分は、息子の名付けのときにはひらがなの名前を候補にすら挙げなかったのだろう? あえて避けたという意識はまったくないので、「男の子の名前にひらがなはありえない」という無意識の思い込みが働いていたのでしょう。