初回の「

中学受験に挑む家庭のスタンスは3つ!親はブレない考えを

」では、そもそも中学受験はさせるべきかや、中学受験における3つのパターンについて、第2回「

中学受験に備えて、低学年は何をすべき!?「早くから塾通いする子ほどスイッチが入らない」

」では、小学校低学年の時期にやっておくべきことや、いつから塾に行かせるべきかについてお伝えしました。最終回となる今回は、志望校の選び方について、引き続きプロ家庭教師の安浪京子さんにうかがいました。

 

──中学受験を考えたとき、志望校選びって難しいと感じます。最終的には6年生になってから決めるとしても、中学受験の勉強を始める頃にはある程度は決めておいた方がいいですか?

 

安浪さん:

ある程度は目標があった方が走りやすいと思いますが、やっていく中で合う学校を探していってもいいと思います。

 

中学受験では、第1志望校に受かる子は4人に1人くらいしかいません。つまり、4人に3人は第2、第3、第4志望に行くことになるんです。だから皆さん併願校を適当に考えがちですが、実はそちらの方が遥かに行く可能性が高いわけです。目標を定めるときには、第1志望校だけでなく、併願校についてもしっかり考えて決めておいた方がいいですね。

 

そして、親としてはもちろん第1志望校に受かるように全力でサポートするし、私たち教える側も全力で指導はしますが、当日は何があるかわからない。だから第一志望には行けない可能性も高いと一歩引いた部分を持っておくことも大切です。「絶対にここしかない!」ってなるとしんどいですし、何より不合格だった時の傷が深過ぎます。

 

 

──なるほど。第1志望校ばかりに気を取られがちですが、むしろ併願校をしっかり考えておくことが大事なんですね。学校を選ぶときは親が一方的に決めてもよくないと思いますが、だからといって子どもが決められるかは疑問です。どのように決めるといいのでしょうか。

 

安浪さん:

やはり、ある程度は親がそれとなく道筋をつけていく必要はありますね。子どもの気持ちはもちろん大事ですが、まだ10年ちょっとしか人生経験のない子どもに選ばせると、よほどしっかりしている子なら別ですが、たいていは女の子なら「制服がかわいい」とか「トイレが汚いからダメ」とか、男の子なら「先輩が優しそうだった」とか「学食のプリンがおいしかった」とか、そういうレベルで選んでしまいがちです。ちゃんと考えて選べといわれても選べないんですよね。

 

まずはいろいろな学校を見に連れて行って、「ここの学校は楽しそう」とか、やりたいスポーツがある子ならその部活がある学校を何校か見せて、その中でどこがよかったか聞いてみるといった方法がいいと思います。

 

親が全部決めるのではなくて、子どもの話をよく聞いた上で、「それはつまりこういうこと?」「この中ならこれが近い?」というふうに、子どもの言葉を言語化してあげて、選ばせるようにしていくとスッキリしてきます。その際、子どもにはあまり偏差値を意識させない方がいいですね。

 

難しいところですが、いきなり上位校を目標にして、やってみたら全然届かないとか、逆にがんばらなくても入れる学校を第1志望にして勉強のモチベーションが上がらないとなるのも困りものです。適度にジャンプできるくらいの目標があるとモチベーションアップにつながりますから、現状よりもやや上の学校を設定できるといいですね。

 

 

──学校を選ぶ際、最近では大学入試制度改革への不安から、大学附属校が人気だと聞きます。先が見えない世の中なので、その方が子どもにとってリスクは減るのかなと思いますが、どうなんでしょうか。

 

安浪さん:

確かに、いま大学附属校が人気です。先々のことをいろいろ逆算しながら考える親御さんが多いのだと思います。ただ、いまの時代、何が起きるかわかりませんよね。附属校といいつつ、半分も附属大学には入れないという学校もありますし。そうなると「こんなはずじゃなかった」ってなるので、どういう状況になろうと生きていける、勉強していける子に育てていく方が大事だと思うんです。そのために中学受験を使うならすごく価値があることだと思います。

 

あまり逆算しすぎないで、いまのお子さんを見て、その子を伸ばすためにはどうしたらいいのか、どういう学校がいいのかを考えましょう。先が見えにくい世の中だからこそ、狭い道を引いてその中にはめこもうとせず、もっと自由でいいのではないでしょうか。結局子どもって親が思うようには育ちませんから。

 

──確かにそうですね。子どもが自分の力で生きていくことができるように中学受験で成長してもらえるといいですよね。学校選びで、ほかにも選ぶポイントや気をつけた方がいいことってありますか?

 

安浪さん:

最近お得な学校、つまり入学するときの偏差値は低くて出るときは高いという学校が人気を集めていますが、そういう学校を選ぶときにもよく考えた方がいいですね。お得ということは、つまり、入学してからめちゃくちゃ勉強させられるとか、大学進学実績は高校から入ってくる超優秀層のみといった事情があったりもします。

 

ほかにも耳障りのいいことばかり言って、実態とは異なる学校もありますから、本物かどうかを見極める目が必要です。本物かどうかは質問して具体的なことが返ってくるかでだいたいわかります。

 

例えば「英語教育に力を入れているといいますが、具体的にどんなことをされているんですか?」とか、「英語は週に何時間あって、その中で他の学校と違う魅力やこの学校独自の取り組みってなんですか?」などと質問した時に、すぐに担当者から具体的なことが返ってくる学校ならいいと思います。でも返ってこないところはフェイクの可能性が高いですね。学校見学の際にぜひ質問してみてください。

 

ただ、結局は子ども自身のやる気が一番大事です。確かに「孟母三遷(もうぼさんせん)」といって、環境によって人は変わりますが、中学生ともなると、本人にその気がなければどれほど潤沢な環境を与えようと意味がありません。無理してレベルの高い学校に入れても、入学してからついていけなくてゴールデンウィーク前にはやめてしまう子も結構います。中学受験はその先につながっていく経験にしないと辛いだけなんですよね。

 

 

──確かに合格したら終わりではなく、その先の人生の方がもっと長くて大事ですよね。

 

安浪さん:

そうなんです。たとえ大学までは苦労せずに行けても、社会に出たら自分の足で立つことができるかどうかが問われます。なので、家庭の価値観にもよりますが、あまり苦労させずに最短距離でいい大学まで進めるような学校選びをするのか、それとも苦労しながら進む道を選ばせるのか、そこはぜひ考えていただきたいですね。

 

いずれにしても、学校見学の前に、まずは夫婦で「ここは譲れない」「これはないよね」という軸を持っておかないと、どこの学校もよく見えてしまいます。軸があればそれが学校選びのリトマス紙になります。まだ余裕のある3〜4年生のうちに夫婦で一致する軸を決めておきましょう。お子さんを交えて家族みんなで話すのもおすすめです。

 

 

PROFILE 安浪京子(やすなみ・きょうこ)

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。神戸大学発達科学部にて教育について学んだのち、関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を務める。その後プロ家庭教師として多くの親子から支持を得ている。『最強の中学受験 〜『普通の子』が合格する絶対ルール〜』『中学受験 大逆転の志望校選び 〜学校選びと過去問対策の必勝法55〜』『中学受験 6年生からの大逆転メソッド 〜2019年入試版 最少のコストで合格をつかむ60の秘策〜』など著書多数。http://artofeducation.co.jp/

 

取材・文/田川志乃、撮影/masacova!