2019年末、離婚したパートナーに支払う子どもの「養育費」について16年ぶりに新しい算定基準が公表されました。

 

近年のライフスタイルの変化などにより子どもの養育にかかるお金が増えていると判断されたためで、受け取り額が月1~2万増えるケースが多く、年間で20万円以上増える可能性も出てきます。

 

ところが、これを聞いても喜ぶひとり親、特にシングルマザーはごくごく少ないといわれます。なぜでしょうか。その理由とは…?

目次

「養育費新算定表」、見直しの内容と背景

離婚後の養育費額は夫婦で話し合って決められます。

 

しかしそれが折り合わない場合には、家庭裁判所などで2003年から広く使用されている算定基準(いわゆる「算定表」)の計算式に基づき、年収などを当てはめておおよその金額を割り出すことができます。

 

しかし、これによって割り出された金額には以前から「安すぎる」と疑問の声が上がっていました。

 

というのも、算定基準となる「基礎収入」は、総収入から税金や住宅ローンなど諸々を差し引いたもの。実際の収入と比べると、40%程度となってしまうのです。

 

これを問題だとして、2016年に日本弁護士連合会が独自の基準を発表。それに基づいて計算すれば、支払われるべき養育費額は平均約1.5倍となるはずでしたが、従来と金額の差が開きすぎるためか、家裁など実際の調停の場ではけっきょく使われずに終わってしまいました。

 

そして2019年の12月23日、最高裁の司法研修所が、近年のライフスタイルにあった算定ができるように16年ぶりに公表したのが、養育費の「新算定表」です。

 

計算方法(枠組み)は基本的に変わっていないのですが「生活費はいくらくらいかかるのか」などのデータが最新の内容となりました。

 

2003年当時と比べると、10代の子どもがスマートフォンを持つのが一般的になり通信費が高くなったことや、税率が8%から10%に上がったことなどを考慮した金額で、結果、月の養育費が1~2万円、年間で10~20万円増えるケースが多いと考えられています。

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しかし、このニュースを聞いて「よかった」「これで子どもに○○してあげられる」と喜ぶひとり親はかなり少ないといわれています。

 

その理由は次のようなもの。

喜べない理由 その1)そもそも金額が少なすぎる!

2016年の厚生労働省の調査では、離婚して小さい子どもをママが引き取った場合、その時点で正社員として働いている人は全体の24%。4人に1人の割合です。

 

もっとも多いのがパート・アルバイトなどの非正規雇用で41%、次に多いのが専業主婦23%。

 

この年代のママに正社員が少ないのにはいくつか理由があります。

 

  • 子どもが保育園に入れず退職、専業主婦になった
  • せっかく復帰しても子どもの病気で休みや早退が続きフルタイムが難しくなった
  • 夫の転勤などで退職して正社員からパートへ
  • 夫の扶養に入るためパートを選択した

 

厚生労働省の平成30年度調査をもとに計算してみると、非正規雇用の20代~30代女性の平均収入はわずか188万円でした。

 

いっぽう、現在子どもが2人いる母子世帯が受け取っている養育費の平均は月に約5万円。

 

養育費を合わせても、親子3人で年間250万足らずで生活していくことになります。

 

これでは生活費だけでせいいっぱいで、習いごとはおろか、おもちゃや衣服さえ十分に買ってあげられない状態ではないでしょうか。

 

仮に養育費が月に2万円増えたとしても、最低限の必需品を買うだけで終わってしまい、将来への投資に回すのはかなり難しいといえます。

喜べない理由 その2)すでに決まった養育費の金額はアップできない!

また、今回発表された数字を根拠に「だから養育費がもっと必要!」と、元配偶者に金額アップを求めることはできないようです。

 

新算定表の説明文の中には「本研究の発表は、養育費等の額を変更すべき事情変更には該当しない」と書かれています。

 

「事情変更」というのは、例えば母親が子どもを引き取ったあとに事故に遭って働けなくなったから養育費を増額してほしいとか、父親が再婚して子どもができたから減額してほしいなどで、こういった場合は相手に申し出ることもできます。

 

しかし、子どもがスマホを持ったり消費税率が上がったりして生活が苦しいのは事実とはいえ、それだけでは「事情が変わった」とは認められないそう。

 

つまり、基本的には、これから離婚の話し合いや協議をする人たちのための算定基準だということになります。

喜べない理由 その3)養育費自体が支払われていない!

そして、最大の問題は、金額が増える・増えない以前に、払うべき養育費を払っていない元配偶者が非常に多いことです。

 

まず、離婚時に、暴力や関係の悪化などで早く離れたいという理由から養育費の取り決めをしていない夫婦が約57%と半分を超えています。

 

約43%の夫婦は養育費の取り決めをしているとはいえ、数年経った後に養育費を受け取れているのはわずか全体の24%。

 

つまり、「小さい子どもを抱えて離婚しても、4人中3人は養育費が受け取れない」という現実があります。

 

「受け取れないのだから、増えようが減ろうが関係ない…」

 

ママたちが思わずそうつぶやいてしまうのも無理もないでしょう。

日本の「養育費払わない問題」、どうするべき?

「離婚後に養育費を受け取れるのは4人に1人」

 

この低い数字は、なんと日本では70年以上前から改善されていないとのこと。

 

海外では、離婚時に養育費について必ず取り決めるよう法律で決まっていたり、いったん国からひとり親に養育費が支払われたあとで元配偶者から取り立てる仕組みになっていたり、ひとり親世帯の子どもが貧困で困らないよう、さまざまな制度が整っています。

 

日本でもようやく、「お金がない」といって払わない元配偶者の資産状況を弁護士が開示させられる法律ができたり、再三の警告にも応じない場合は氏名を公表する案が出たりしていますが、まだ課題も多く残っている状態です。

 

関連記事:「養育費払わないと氏名公表」は、シングルマザーの泣き寝入りを救う!?

おわりに

今回、養育費の算定基準について見直されたのは、子どもたちにとって歓迎すべきこと。

 

しかし同時に未払いの問題を解決しなければ、せっかくの見直しも絵に描いたモチとなってしまいます。

 

子どもの毎日が貧困によってつらいものになったり、将来の可能性が狭められてしまったりすることのないよう、養育費の支払いが徹底されるような仕組み作りもしっかりと進めてほしいと願います。

 

文/高谷みえこ

参考/裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」

日本弁護士連合会「養育費・婚姻費用の新算定表とQ&A」

厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」