継続したフォローと対話が虐待を減らす
さらに高橋教授は、虐待につながるリスクは時間とともに高くなったり低くなったりと流動的だと指摘。明らかにリスクが高いと判断された場合は対応・介入へと進みますが、リスク要因や予兆が潜んでいる、というグレーゾーンの場合にどう感知するかが重要だと話しました。
日本では、妊娠期から子育て期の相談支援をワンストップで行う「子育て世代包括支援センター」を2020年度までに全国展開しようという動きがありますが、現在はやっと母子手帳交付時の専門職の面談が定着してきているという段階。
フィンランドのように継続してフォローするシステムにはなっておらず、実情の把握が途切れがちで、子育てが家庭の自己責任とされている面があると問題点を指摘しました。
フィンランドで使われている「BriefCAP」のように、日本でも出産後のお母さんに質問に答えてもらうことで、精神的な不安定さなどをチェックする方法は使われています。ただ高橋教授は「フィンランドではBriefCAPが対話のきっかけとして使われているのに対し、日本では『項目チェック』になりがち」と指摘します。
専門職が親たちと話す際に重要なのは、専門職だけが話すのではなく、本人に語らせることだそう。項目をチェックして問題を解決するためにはどうするべきかを一方的にアドバイスするのではなく、本人が見つけられるように働きかけることが、リスクの軽減につながるといいます。
「日本ではあまりこうした対話の方法が意識されていません。こうした能力を伸ばすためのプログラムが必要なのではないでしょうか」と指摘していました。
子どもへの体罰が法律で禁止されてから35年経つフィンランド。「変わるには時間がかかります」というパーヴィライネン教授の言葉が印象的でした。
日本も法律改正や相談できる場を整備することなどによって、少しずつ社会が変わっていくのだと思います。1人でも多くの心と命を守れる社会になるよう、あきらめず進んでいきたいですね。
取材・写真・文/小西和香