子どもはなかなか親の願う通りに動いてはくれないものですが、時々、天使かと思うほど親の喜ぶような態度や発言をしてくれる子がいます。しかし実は、それが行き過ぎると、将来、自分の意志で行動できなくなったり、仕事や結婚生活でさまざまなトラブルを引き起こす「いい子症候群」になってしまう危険性があるといわれています。
今回は「いい子症候群」とはどのような状態をいうのか、何が将来問題なのか、親として気をつけるべきことは…などを解説します。
目次
「いい子症候群」とは。いい子に何か問題があるの?
「いい子症候群」は、教育評論家の通称尾木ママこと尾木直樹さんが提唱し、話題になった呼び名です。
出先ではいつも行儀よくし、わがままを言わず、反抗期もない…他人から見るとうらやましい限りですが、何が問題なのでしょうか?
「いい子」と「いい子症候群」は何が違うのか
親として思わず「いい子ね」と言いたくなってしまうのはどんな時でしょうか?
娘が幼稚園の頃、玄関に迷い込んできた虫を筆者が叩こうとしたら「わたしが逃がしてくる」と言って網で捕まえて遠くの草むらまで連れて行ったのを見て、おもわず「いい子だね~」と口にしたことがあります。
親の意向とは関係なく、その子が本当にやりたいことをしたらたまたま喜ばれたり役に立ったりした場合、それは本当の意味での「いい子」だといえるでしょう。
また、「〇〇しようね」と言われて従うところまでは「いい子」ですが、言われる前から、親を喜ばせる行動を予測してそのとおりに動くようになると「いい子症候群」に近づいてきます。
もちろん、その子の性格により、多少そういう傾向がある程度なら、「そんなに気を使わなくてもいいんだよ」でいいかもしれません。
しかし、「〇〇できなければ親に愛してもらえない」「〇〇できない自分には価値がない」「判断基準が親の意向なのか自分の意志なのか分からない」…などと感じるようになると要注意です。
「いい子症候群」は何歳頃から始まる?
子どもはおよそ2歳から3歳頃に、ママをはじめとする他人と自分とが別の存在であることを意識しはじめると言われています。
この自我が出てくる時期に、自分自身の感情を抑えたまま成長してしまうのは、将来さまざまな弊害で苦しむおそれがあるとして、この時期の子があまりにも聞きわけが良すぎると「いい子症候群」を心配されるようになりました。
だけど「いい子」なら問題ないのでは?
「でも、仮に親の意向を汲んでばかりだとしても、誰かに迷惑をかけるわけではないし…ほめられるような行動ができているならむしろ良いことでは?」 と思う人もいるかもしれません。
ただ、周囲にとってはいい子でも、本人の中ではしだいに次のような精神的ひずみが生まれてくることがあります。
精神的葛藤に苦しむ
中学校、高校と成長するにつれ、人の顔色を伺って行動してばかりの自分自身に対し、「自分は演技している」「嘘をついている」「これは本当の自分じゃないのに」と常にモヤモヤし、ストレスを抱えて日々生きる子もいます。
内心イヤなことも断れない
親や先生が強い決定権を持っている幼少期を過ぎ、中学生や高校生になると、「いい子症候群」の子はクラスや部活で強い立場の子の意向を汲んで行動するようになります。
イタズラや万引き・いじめなど、本当はやりたくない行為を、相手に嫌われたくないばかりに断り切れず加担させられる可能性も出てきます。
ため込みすぎた反動が出る
本来、人間は自分の意志で行動するもの。それが長年の習慣で常に本音を言えなくなってしまうと、不満や疑問をため込みすぎて、その反動が出てしまうことがあります。
突然キレる・心を病む・親の見ていないところで悪いことをする…など表れ方は色々ですが、どれもため込んだ末に起こることです。
なお、こういった「いい子症候群」とは対照的なのが、いつもぶれない自分軸がある「マイペース」なタイプの子です。以下の記事で、どう違うのかも比べてみて下さい。
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「いい子症候群」と「機能不全家族」「アダルトチルドレン」の関係とは
「いい子症候群」には、「機能不全家族」「アダルトチルドレン」の問題が深くかかわっていると言われます。
「機能不全家族」とは、もともとはアルコール中毒の患者の家庭を指したものでしたが、現在では、子どもにとって本来必要な「ありのままの自分を出していられる環境」が失われた状態の家庭全体を含みます。
そこで育つ子どもは、なんとか家族を維持するために何らかの役割を演じるようになるといいます。
- 自分がダメな子を演じることで、他の家族を団結させようとする
- 親代わりを演じ、泣いている母親を慰めたり励ましたりする
- 一瞬でも家族を笑わせたくてピエロを演じ、ふざけたりおどけたりする
これらの中に「いい子症候群」も含まれます。
こういった環境で何らかの役割を演じながら成長した子の中には、大人になってもその習慣が抜けず、「アダルトチルドレン」として人間関係に困難を抱えて生きている人も少なくありません。
わが家は家庭内暴力やギャンブル・アルコール中毒などの問題はないから大丈夫…と思っても、「厳しすぎるルール」や「会話や笑いがない」「過干渉」なども、場合によっては「機能不全家族」になり得ます。
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「いい子症候群」の子どもは将来どうなる?
親の思い通りに動いてくれる「いい子症候群」の子どもがそのまま成長すると、将来、仕事や家庭はどうなるのでしょうか?
まずは学校や職場で懸念される点を挙げてみます。
- 部活や職場で「指示待ち」になりがちで、やりがいのある仕事を任されない
- 入試・就職・転職などの面接で、自分の長所が答えられない
- 他人からの承認を基準にしてきたため、自分で自分を認めることができず、自己肯定感が低くなりがち
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- 失敗しないよう親に合わせて立ちまわってきたため、1人で失敗や挫折するとどうしていいか分からない
- いつも親をはじめとする他人が決定権を持っていたため、失敗や困難の原因も他人にあると考えてしまう「他責思考」になりがち。他責思考は新型(非定型)うつのひとつの特徴でもある
- 意見を求められたとき、自分の意見ではなく「どう答えれば相手が喜ぶか」で答えてしまう。自分自身の意見や発想をしっかりと持って発言でき、自発的に判断して動ける人材が求められるこれからのグローバル化社会で生き残れない可能性がある
プライベート・恋愛や結婚においても次のようなことが予想されます。
- 自分の感情を押し殺すことに慣れてしまい、そのうち自分の本当の気持ちや何がしたいのかが分からなくなる
- 明確なゴールのない行為や、誰かの指示を受けて行うものではない時間(自由行動、のんびりくつろぐ、おしゃべりなど)は、自分のしたいことが何なのか分からないため楽しめない
- 自分の好きなことが分からないので、「大好きな〇〇に没頭してストレス発散」ということができす、心身の不調を起こしやすい
- 常に受け身で相手の言いなりになりがちなため、交際や結婚において、主体性のある相手と付き合いたい人は不満を感じて離れてしまい、モラハラ傾向のある異性につかまりやすい
もちろん、全員が必ずしもそうなってしまうとは限りませんが、これだけあると、現在あまりにも聞き分けがいい子に対し「いい子で助かるわ」とばかり言っていられなくなりますね。
「いい子症候群」にしてしまう親の特徴
本来、子どもがママやパパを喜ばせたい、ほめられたい…と思って頑張るのは自然なことで、どの親子にも共通しています。
しかしその中で「いい子症候群」を誘発してしまう親には、次のような特徴があると言われています。
条件付きの愛情しか与えない
跳び箱や漢字テストで100点を取るなど、できたときだけほめる=評価になってしまうと、子どもはそのままの自分でいいんだと思えず、評価されることを目的にがんばるようになってしまいます。
子どもが何かをしようと決めた時の気持ちや、途中のがんばりに心を寄せていれば、うまく行った時も心からよかったね!と一緒に喜べますし、失敗しても「残念、次がんばろう!」と共感でき、子どもは自信を持ってやりたいことをやりたいと言えるようになります。
「嫌いになる」といってしつけようとする
小さい子は誰よりも親に愛されたいもの。裏を返せば、嫌われないために必死に親の気に入る行動を取ろうとしてしまいます。
「そんなことする子はママ嫌い!」という叱り方や、失敗すると「ほら、ママの言う通りにしないから」といった発言は、子どものそんな気持ちを利用してコントロールしていることになります。
子どもの好きなことや関心のあることではなく、親のやらせたいことをすすめる
習い事を決めるときなどに、子ども自身に選ばせているように見せかけて、親がやらせたいこと(または昔やりたかったこと)に誘導するママやパパは少なくないのではないでしょうか。
よく気がつく子ほど、内心親ががピアノなりサッカーなりをやってほしいと思っているのを敏感に感じ取り、喜んでほしくて「やりたい」と言ったりします。
たまたま子どもがそれを気に入ってくれれば問題ないのですが、合わないことも当然あり得ます。
その時に「あなたがやりたいって言ったんだよね?」と言ってやめさせないといったことが続くと、子どもは自分で選択することをだんだんと諦めてしまいます。
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他にも、子どもががんばって集めたセミの抜け殻を「汚い!なんでこんなもの持って帰ってくるの?!」と叱って捨てるなど、子ども自身の興味関心より、親の感情や価値観を優先することが続くと、「いい子症候群」につながりやすいと考えられます。
わが家に当てはまるものはないか、いちど振りかえってみると良いかもしれません。
「いい子症候群」まとめ
最近では、「いい子症候群」という言葉や、アダルトチルドレンの弊害が知られてきたため、自分で気付いて改善しようとする人も増えているそうです。
もちろんそれはとても良いことですが、本人にとっては大変な苦労と相当な時間を要するでしょう。
小さい時に親がそう仕向けなければ、そんな苦しみを味わわずに済んだはず。
子育て中の今こそ、「いい子=都合のいい子」を作り出そうとしていないか、時々立ち止まって考えてみたいですね。
文/高谷みえこ
参考/書籍『アダルト・チルドレンと家族』斉藤学 著/学陽書房