最近、「自己肯定感」という言葉をよく見かけませんか?

 

自己肯定感の高い状態では、ものごとを前向きにとらえることができ、勉強や仕事・人間関係がうまく行きやすい、ストレスに対処する能力が高く、うつなどの精神疾患にかかりにくいなどといわれています。

 

そして、実はこの「自己肯定感」は、赤ちゃんの時からの周囲の接し方で大きく左右されることが分かっています。

 

今回は、親からわが子へのお金で買えないプレゼントとして「自己肯定感を高めるためにしてあげられること」を解説します。

「自己肯定感」とは?「自尊心」とは違う?正しい意味を解説


「自己肯定感」は、もともとは英語の”Self esteem(セルフエスティーム)”を訳したもので、辞書で調べると「自尊心」「自尊感情」などと訳す場合もあるようです。

 

しかし現在の日本での「自己肯定感」は、「外部に振り回されず、自分を信じて大切にできること」といった意味合いで使われています。

 

「自尊心」の方も、「自分を大切にする」という意味では同じですが、「高すぎる自尊心(プライド)が邪魔をして挑戦できずに終わった」など、ネガティブな意味に使われることもあります。

 

いっぽう、「自己肯定感」は高いからといって悪影響が出るものではありません。

 

自己肯定感が高い人は、大人でも子どもでも、次のような特徴があると言われています。

 

  • 何かトラブルがあっても、自分なら大丈夫、乗り切れると信じてがんばれる
  • 周囲の環境が悪くても、心の底まで影響されず、自分の判断で行動できる
  • 新しいことや難しそうなことにもチャレンジする意欲がある
  • 自分を大切にし、同様に他人も大切にできる

 

上のような精神状態であれば、学習・スポーツ・仕事・人間関係などがうまくいきやすいのは容易に想像がつきますね。

子供の自己肯定感が低いまま大人になるとどうなるのか


いっぽう、自己肯定感が低い人にはどんな特徴があるでしょうか。

 

  • 自信がなく、そのままの自分には価値がないと感じる
  • 周囲に流されやすく、ものごとを他人の評価で決めてしまいがち
  • 常に周囲の目が気になりプレッシャーを感じる
  • トラブルがあると自分のせいだと感じ、落ち込んでしまう
  • 批判や反論にダメージを受けやすい反面、他人のこともよく批判する
  • 他人の成功をねたましく感じる

 

もちろん、こういった面は誰にでも多少はあることと思います。

 

しかし、体調が悪い・過剰なストレス・恋人と別れるなどショックな出来事があった時などに一時的に「自分には何の価値もない」と落ち込んでしまうことは誰にでもありますが、常にその状態が続いていると、仕事や人間関係などがうまくいかず、次のような場面で生きにくいと感じたり、トラブルに巻き込まれたりしやすくなります。

いじめやブラックな環境に抗議できない

学校でいじめや嫌がらせに遭ったり、職場で不当な扱いを受けても、自己肯定感が低いと、「自分が悪いんだ」「自分には抗議する資格がない」と考えてしまいます。

 

ガマンを重ねた結果、精神的に病んでしまったり、不登校になったり、仕事が続かないといった可能性があります。

困った相手に引き寄せられてしまう

人は誰でも「認められたい」という欲求があります。

 

自己肯定感の高い人は、いまの自分を自分で認めることができるため、常にある程度満たされている状態ですが、自己肯定感が低い人は「認められる」ことにいつも飢えているため、甘い言葉をかけてくる相手に反応してしまいがち。

 

大人であれば風俗店・ホストクラブなどの異性や、いわゆる「ダメンズ」「悪女」に引き寄せられやすく、子どもなら、夜の街で甘い声をかけてくる大人についていってしまう危険性があります。

自分の成功も他人の成功も喜べない

自己肯定感の高い人は、むやみに他人と自分を比べることがないため、何かがうまく行った時も純粋に喜ぶことができます。

 

しかし自己肯定感が低い人は「自分がどう思うか」ではなく、他人からの評価や比較が基準になってしまうため、せっかく自分が成功しても「でも上には上がいるし」と他人と比較して心から喜べません。

 

反対に、他人が成功するとその分自分の評価が下がるように感じてしまい、同じく素直に喜べません。

 

日本の子どもたちは自己肯定感が低い


内閣府が毎年行っている「子ども・若者白書」の2019年版では、「今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~」という特集の中で、7か国の13~29歳の男女のアンケート結果を比較し、日本は「諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低い」と述べています。

 

「自分自身に満足している」と感じる人は、トップのアメリカが87%、他の先進国も70%以上なのに対し、最下位の日本ではわずか45.1%。

 

また「自分には長所がある」と答えたのも、アメリカの93.1%と比べ、日本は62.3%でした。

 

「自分自身に満足していない」というのは、「もっと成長したい」という向上心の表れだと見ることもできます。

 

しかし、他の「自分の考えを相手にはっきり伝えることができる」「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」といった質問にも「そう思わない」という人が多いことから、やはり日本の若者の回答は「自分に自信がない」という気持ちに近いように思われます。

子どもの自己肯定感を高めるに必要なこと


人の「自己肯定感」を大きく左右するのは、やはり子ども時代の過ごし方だと言われています。

 

「自己肯定感の低い赤ちゃん」というのは存在しないことから分かるように、子どもは最初は誰でも自己肯定感を持っていて、自分が大切な存在だと認識しながら成長していきます。

 

この「自分は愛されていて大切な存在」という感覚が、生涯にわたって自己肯定感のベースとなりますが、この時期に周囲からどのような声をかけられたかによって自己肯定感は高くも低くもなります。

 

では、具体的にはどう子どもと接するのが良いのでしょうか?

 

失敗を責めない

失敗したこと自体を責めたり、「何をやってもダメ」と人格を攻撃すると、「失敗することには価値がない」「失敗した自分にも価値がない」という考え方になってしまいがちです。

 

失敗はまたとない学びの機会であり、プラス材料である…という考えを子どもに伝え、失敗したら「どうフォローするか」「次はどうすればうまくいくか」を考える習慣をつけてあげたいですね。

誰かと比較しない

「弟はできるのに、お兄ちゃんのあなたができないなんて恥ずかしいよ!」と叱ったり、「みんなできないのに、〇〇ちゃんだけはできてすごいね!」とほめていませんか?

 

叱るのはともかく、ほめるのはいいんじゃないの?と思いそうですが、これは、方向性が違うだけでどちらも「他人と比較して上であることに価値がある」と教えてしまっています。

 

いつもこのように接していると、他人と比較せずに自分を認める(肯定する)ことができなくなり、「自分の価値を維持するには他人を蹴落とすしかない」「何かで負けたら自分には価値がない」…という発想になってしまいがちです。

先回りして親の言うとおりにさせようとしない

少子化の影響で、1人の子に親の目が集中した結果、大人からみてあきらかに失敗しそうなことは先回りしてアドバイスしたり、手助けしたりする機会が増えたといわれます。

 

子どもに痛い目を見させたくないという親心はとても分かるのですが、それが習慣になると、その子の中には「強い立場の人が言ったとおりにしていれば安心」という思考回路ができてしまいます。

 

また、これが上記の「失敗すると叱られる」とセットになると、「人の言う通りにしていれば失敗しても自分が責められることはない」と、物事にチャレンジする意欲が失われてしまいかねません。

 

子どもには「失敗する権利」があると考え、危険なこと以外はぐっとこらえて見守ってみましょう。

マイナスのレッテルを貼らない

普通の人でも、子ども時代に親から「ほんとにだらしないよね」などと事あるごとに言われて、自分でもそう思い込んでしまったという人は少なくありません。

 

しかし大人になって振り返ると自分は意外と普通だったり、むしろ几帳面だったことに気付いて驚いたという人も。

 

言う側は軽い冗談かもしれませんが、予想以上にそのレッテルに縛られてしまうケースは多々あります。

 

ですので、子どもにカッとしたり、言い聞かせても聞かないからといって

 

「あなたにできるわけないでしょう」 「そんなことが好きでも役に立たないよ」 「嘘つきね」

 

といったマイナスのレッテルは口に出さないように気をつけましょう。

「えらいね」よりは「ありがとう」「よかったね」

子どもがお手伝いをしてくれた時、ピアノが思い通りに弾けた時などは、「えらいね」「すごいね」とほめるのも悪いことではないのですが、いつもそればかりでは、誰かにほめられないと自分の価値を感じられなくなってしまう可能性も。

 

お手伝いには「えらいね」よりは「ありがとう」「ママ助かった~」と感謝するのがおすすめです。

 

誰に評価されなくとも、子ども自身が「ママが喜んでくれてうれしいから、またお手伝いしよう」と決められるようになります。

 

また感謝されることは自己肯定感とともに「自己有用感」も高め、部活や職場などでも、自分だけでなく周囲のために頑張ることに喜びを見出せるようになる…と言われています。

 

同じ理由から、何かをがんばって成し遂げたときも、評価や比較を含む「すごいね」よりは、子どものうれしい気持ちに寄り添う「よかったね!」がおすすめです。

親自身に自己肯定感があること

上記をまとめると、つまり「あなたはそのままでOK」というメッセージを伝えることが、子どもの自己肯定感につながっていくといえます。

 

でも、子どもに対し「あなたはそのままでOK」なんて言ってたらいつまでも短所が直らないのでは…?と心配になるママやパパもいると思います。

 

そう感じる場合、もしかすると、ママやパパ自身も自己肯定感が低いのかもしれません。

 

「小さい頃、親からできることは当たり前としてスルーされ、欠点ばかり注意されてきた」

 

「大人になってからも誰かにほめられるとどうにも居心地が悪く、つい否定したくなってしまう」

 

という人は当てはまる可能性があります。

 

思い当たるママ・パパは、まずは子ども時代の自分を振りかえり「お前はダメだと言われてそう思い込んでいたけど、本当はそのままでもOKだった」と自分を認めることも大切です。

 

自分を尊重し大切にできる大人は、子どものことも同じように尊重できるはず。

子供の自己肯定感を高める接し方を


いよいよ2020年からは大学入試センター試験が新入試(大学入学共通テスト)に変わります。

 

グローバル化とIT化・AIの実用化がますます加速する中で、これまでのように言われたことを従順に行う人材より、自ら考えて局面を切り拓いていける人材が求められ、それが大学入試から小中高の教育にまで影響しているといわれます。

 

そして、世界で通用するチャレンジ精神や問題解決能力のベースとして欠かせないのが、今回紹介した「自己肯定感」です。

 

自己肯定感は、1回の働きかけですぐに高まり持続するというものではなく、日々の繰り返しで長い時間をかけて身についていくもの。

 

もちろんお金では買えません。

 

でも、「うちはさんざん良くない対応しちゃったから、もう手遅れ」ということは決してありません。ぜひ、お子さんの未来のため、自分自身や子どもへの毎日の接し方を見直すところから始めてみて下さいね。

 

文/高谷みえこ

参考:内閣府「令和元年版 子供・若者白書(全体版)」

文部科学省 国立教育政策研究所『「自尊感情」?それとも、「自己有用感」 ?』