一般的に線路は平行に並んでいます。ところが、鉄道地図を見ると線路で三角形を作っている「デルタ線」が存在します。これはどういうことなのか?今回は近畿日本鉄道(近鉄)・伊勢中川駅付近にあるデルタ線をメインに紹介します。夏休み、ぜひこの視点で親子で鉄道に注目してみてください!
デルタ線、中川短絡線とは?
三角形のように配置された線路の配線を「デルタ線」と呼んでいます。 ここで紹介する近鉄・伊勢中川駅付近にあるデルタ線は以下の路線で構成されています。
緑色:中川短絡線(大阪線~名古屋線) 赤色:名古屋線(近鉄名古屋駅~伊勢中川駅) 青色:大阪線(大阪上本町駅~伊勢中川駅)
注目したいのが緑色の中川短絡線です。同線は主に大阪難波駅と近鉄名古屋駅を結ぶ名阪特急が走ります。つまり、大阪線~名古屋線をつなぐバイパスのような役割を果たしているわけですね。そのため、名阪特急は伊勢中川駅には寄りません。
実際に大阪難波駅から名阪特急に乗り、中川短絡線を体験してきました。 大阪難波駅からひたすら東に向かって走っていた名阪特急は同線に近づくと一気にスピードダウン。時速30キロ~40キロほどのスピードで通過しました。写真ですと「榊原温泉」と書かれた看板の奥に大阪線の架線柱が見えます。左側は名古屋線です。名古屋線に入ると再び速度を上げました。
ノンストップ特急(近鉄名古屋駅~鶴橋駅間がノンストップ)が運行されていた時代は中川短絡線で運転士の交代が行われていたとか。また、2012年に短絡線の付け替え工事が行われ、以前と比べるとカーブの曲がり度が改善されました。ぜひ、名阪特急に乗車された際は中川短絡線を確認することをお忘れなく。
一方、賢島駅発(伊勢中川方)大阪難波駅行き「伊勢志摩ライナー」に乗り、デルタ線を撮影しました。左奥に見えるのが中川短絡線、右側が名古屋線です。
なんで、中川短絡線はできたの?
それでは、どのような経緯で中川短絡線はできたのでしょうか。背景には近鉄の興味深い歴史が隠されています。近鉄は総距離500キロ以上を誇る大手私鉄ですが、さまざまな小私鉄を合併して、今日のような路線網を形成しました。
大阪線は上本町駅~桜井駅間は大阪電気軌道(大軌)、桜井駅~伊勢中川駅間は参宮急行電鉄(参急)によって建設が進められました。1930年に両路線間で直通運転がはじまり、1941年には合併して関西急行電鉄が発足しています。
一方、名古屋線は近鉄名古屋駅~桑名駅間が関西急行電鉄、桑名駅~江戸橋駅間は伊勢鉄道、江戸橋駅~伊勢中川駅間は参急が建設しました。ところが、1950年代までは大阪線と名古屋線は線路の幅が違っていたので、伊勢中川駅での乗り換えが必要でした。
1950年代に名古屋線の線路を広げる工事が行われ、伊勢湾台風の難局を乗り越えて完成。1959年から伊勢中川駅でスイッチバックする形で大阪~名古屋間の直通特急列車の運行を開始しました。しかし「いちいち伊勢中川駅でスイッチバックするのは大変だ」ということで、伊勢中川駅をパスする大阪線~名古屋線をつなげるバイパス線の建設を決定。1961年に中川短絡線が完成し、大阪~名古屋間の所要時間は大幅に短縮されました。このように同路線は短い路線ですが、近鉄にとってはなくてはならない路線です。
意外と多い?デルタ線
それでは、近鉄以外にデルタ線はあるのでしょうか。答えは「YES」。しかも、全国でデルタ線がみられるのは20箇所超え。意外と多いことがわかります。その中で有名なのは名鉄東枇杷島駅~西枇杷島駅間にある枇杷島分岐点でしょう。こちらは名古屋本線と犬山線の分岐に使われています。ただし、枇杷島分岐点では犬山線~名古屋本線(岐阜方面)を結ぶ線には定期列車の設定はありません。
JRですと、香川県・宇多津駅付近にあるデルタ線が有名です。こちらは本四備讃線(岡山方面~四国方面)と予讃線(高松方面~松山方面)で構成されています。
デルタ線を楽しむには
デルタ線を楽しむにはズバリ「一番前に座ること」。伊勢中川駅付近のデルタ線を見るには名阪特急「アーバンライナー」や伊勢志摩行きの特急「伊勢志摩ライナー」をおすすめします。「アーバンライナー」の名古屋方は追加料金が必要な「デラックスカー」なのでご注意を。大阪難波方は通常料金で利用できる「レギュラーカー」です。「伊勢志摩ライナー」は運転室後ろに「パノラマデッキ」があり、誰でも無料で前面展望が楽しめます。
できれば、スマホでGoogleマップを確認しながら車窓を見ると、子どもにもわかると思います。ぜひ、親子でミステリアスなデルタ線を楽しんでくださいね。
文・撮影/新田浩之