「大きな声で話しかけても、もう聞こえないんです」。昨年の自宅全焼火災から1年、ショックからか妻・パー子さんの難聴が悪化し、夫婦の会話は画用紙での筆談が中心になったという林家ペーさん。「認知症」との報道を否定しつつ、文字の読み間違いで大ゲンカする日々。多くの仲間の支援で歩んだ激動の1年と現在の暮らしを聞きました。

家の前に消防車が何十台も…

2025年9月、火事で全焼してしまった林家ペーさんのご自宅

── 昨年9月に自宅が火災で全焼するという大変な災難に見舞われました。あれから1年が経ちますが、改めて当時の状況を伺えますか。

 

林家さん:1年前の9月19日でした。9月20日は初代林家三平の命日で、去年は1日前の19日に、一門で菩提寺に集合していたんです。パー子は体調が悪くて、僕だけ出席していました。そのとき僕の携帯電話が鳴って「ペーさん、電話だ」っていうんで出てみたら、「赤羽消防署ですけど、ペーさんの家が燃えています」って。

 

「えっ?嘘!」って、てっきりドッキリカメラかと思ったの。でも「パー子さんがパニック状態で、救急車で保護しているので、すぐに来てください」ということで、急いでタクシーで向かいました。ところが、途中からひどい渋滞で車が動かない。運転手さんが「赤羽で火事があったからですよ」って。渋滞は、うちが原因だったの。途中からタクシーを降りて、死に物狂いで走って行ったら、家の前に消防車が何十台も来ていて、テレビ局も来ていて、ことの重大さに驚きました。

 

パー子は、手をちょっと火傷しただけで済んで、その日は着の身着のまま、ふたりでビジネスホテルに泊まりました。とにかくパー子が無事でホッとしましたね。でも、パー子の一番のショックは、かわいがっていた4匹のネコちゃんたちを助けられなかったことだったの。すぐに助けに戻ろうとしたらしいんだけど、「ダメだ」って止められたのね。彼女と結婚して54年、ネコちゃんがいない日はなかった…家族なの。今でも、思い出すと涙が出ちゃいますね。

「もう頭が上がらない」周囲に救われた1年

── それはお気の毒です。

 

林家さん:火災の原因は、古いコンセントや電気コードの漏電だったそうです。同じマンションの住人の方や近隣の方には、本当にご迷惑をおかけしました。しかも、僕らは火災保険に入っていなかった。僕らの住まいはもともとパー子のお兄さんの持ち物で、30年間家賃を払って住んでいたんです。4年前にお兄さんが亡くなったときにパー子が相続して、そのときに火災保険に入るべきだったのに、すっかり頭から抜けていた。「非常識」と言われてもしょうがないよね。

 

それなのに、本当にいろんな方々に助けていただきました。林家正蔵師匠の奥さんの有希子さんは、住む家が決まるとすぐに布団や家財一式を届けてくださいました。林家たい平師匠は、「読み切りをしましょう」と言って、あちこちに声をかけてくださった。「読み切り」っていうのは、落語界に古くからある習わしで、災難に見舞われた仲間を助けるために、特別に開く演芸会だそうです。出演を申し出てくれた演者のギャラはなしで、集まったお金から経費を引いたぶんを災難に遭った仲間にプレゼントするっていう。ありがたいですよね。

 

歴史ある「東洋館」が会場代を無料にしてくださって、林家木久扇師匠、三遊亭好楽師匠、せんだみつおさん、桂米助師匠、松村邦洋さん、松本明子さんらが集まってくださいました。火事から1か月半後には「がんばれ!ペー・パー子 融資応援団のつどい大演芸大会」を開催していただいて、岩崎宏美さん、テリー伊藤さん、戸田恵子さんほか、そうそうたる出演者が集まってくださいました。

 

たくさんの方からお見舞金をいただきましたし、道を歩いていても「がんばってね」と見知らぬ方がバッグに現金を入れてくださることもあった。家の後始末のことで、マンションの管理会社や住人の方と何度か話し合いをしたとき、火災でいちばん大きな被害があった住人の方が「パー子さんは大丈夫ですか?」といつも優しい言葉をかけてくださることも本当にありがたくて。もう頭が上がらないですよ。

大きな声で話しかけてもパー子はもう聞こえない

林家ペー、パー子
「読み切り」として企画してもらった演芸会

── 火事の後、パー子さんのご体調がすぐれないと報道されて、心配しています。

 

林家さん:火事のショックからか、パー子は難聴がひどくなってね。「認知症か」なんて報道もありましたけど、そうじゃなくて、耳が悪いんです。昔から難聴気味ではあったんですよ。でも、今じゃ相当大きな声で話しかけても聞こえない。会話は、ほぼ筆談です。家中にマジックと画用紙を置いてあるの。

 

でもね、不思議と「バカ」って言うときだけ、怒るんだよね。「今、バカって言ったでしょ?」って。それだけは雰囲気でわかるみたいね。

 

── 筆談で、お互いに気持ちを伝え合うこともあるのですか。

 

林家さん:そんな文学的なことはしないよ。もう書く手間が面倒くさいしね。僕の字は崩し過ぎて読めないから、いつも大ゲンカよ。今日も「高橋」が「新橋」に見えたってだけのことでケンカしてね。そんな夫婦生活も、もう54年だからね。

 

今住んでいる家は、駅から近くて仕事へ行くには便利なんだけど、動物を飼えないから、パー子が沈みこんじゃってね。引っ越したいけど、うちはほら、いい歳の夫婦だから。そう思いたくはないけど、老夫婦でしょ。新しく家を借りるのが、なかなか難しいところはありますよね。

 

取材・文:林優子 写真:林家ペー