「なりふり構っていられない」。苦難の末にカレー店長となり6年。異業種へ挑戦するかもめんたる・槙尾ユウスケを待っていたのは、営業電話による100万円の詐欺被害やサボるバイトのマネージメントなど、決して甘くない現実でした。変なプライドを捨てて掴んだ月収30万円の安定と、10年の冷戦を経て訪れた相方との変化。泥臭く生き抜く彼の現在地に迫ります。

芸人もカレー屋も突き詰めたら同じだった

かもめんたる 槇尾ユウスケ
間借りカレーを始めて6年になる槙尾さん

── 2013年9月キングオブコント(KOC)優勝。翌年1月には第1子が誕生し、仕事もプライベートも順調に進んでいくかと思いきや、仕事は徐々に減少。芸人の仕事だけでは生活が厳しくなっていったと聞いています。

 

現在は知り合いから紹介された「間借りカレーの店長」としても働かれているそうですが、以前は芸人以外の仕事をすることに抵抗があったそうですね。お話がきてどう思いましたか?

 

槙尾さん:それ以前に不動産屋の仕事をしていたのですが、その頃から「なりふり構っていられないな」と。変なプライドは捨ててなんでもやってみようと思ってました。カレー屋の社長がもともと音楽をやっていた人らしく、僕みたいに芸人とかやりたいことを続けながら、生活もできるように考えてくださって、店長にならないかと声を掛けてくださったんです。ランチ営業のみで、ほかの時間は芸人の仕事ができるし、まずはやってみようと思いました。

 

── 翌年、2020年1月に『三軒茶屋カリガリ マキオカリー』がオープンしました。

 

槙尾さん:もともと料理が好きだったし飲食店でバイト経験もあるので、わりとスムーズにスタートしたと思います。僕を含め、他のバイトスタッフも芸人など、ほかにやりたいことがある人たちで構成されているので、ある程度気持ちも共有できますし。しばらくやってみてわかったのは、芸人はお客さんを笑わせて対価をいただき、カレー屋もお客さんに美味しいと思ってもらって対価をいただく。目の前にいる人を喜ばせたい、楽しませたいと思う部分は一緒なのかなと思いました。

 

── 先日放送されたABEMAの『NO MAKE』では、芸人仲間がたくさん来店されていて、槙尾さんが周りから慕われている印象がありました。

 

槙尾さん:どうなんですかね。でも、なるべく困っている人がいたら助けようとは思います。ちょっとお節介なところもあるかもしれないですけど。相方の岩崎う大は才能もあるし、ちょっと話しかけにくい雰囲気があるかもしれないです。でも、僕は何を言っても大丈夫というか、仲良くなるハードルが低いのかもしれないですね。

鳴り止まない営業電話と詐欺被害

── カレー屋をはじめてどんなことが大変でしたか?

 

槙尾さん:僕は誰とでもオープンマインドで接しますが、人を信じやすいんです。カレー屋をはじめると、たくさんの営業電話が掛かってきました。「ホームページ作りませんか」「広告出しませんか」からはじまって、デリバリーアプリの話もたくさんきます。最初は警戒していましたが、出前館、ウーバーイーツほか、営業がきた会社をすべて受けてしまって、今は6社と契約しています。

 

そのうえ詐欺被害にも遭いました。投資詐欺みたいな感じですけど、インターネットのショップのオーナーの話がきて、芸人とカレーで3本目の軸があるといいなと思いはじめたんです。最初は定期的にお金が入ってきましたが、あるときからパッタリ入金が途絶えて…総額100万円以上の被害額ですね。

 

── それはかなりの額ですね。

 

槙尾さん:ほかにも、スタッフさんの管理は今でも難しいです。遅刻や急な欠勤、機嫌が悪い人、あの人と相性が悪いから一緒の日にシフトに入りたくないとか。飲食店は慣れていると言ってバイトで入ってきたら、「あれ…?」って感じだった人もいるし、片づけが終わってないのに先に座ってサボる人もいて、注意すると辞めちゃうみたいな。 

「俯瞰で見たら、面白い人生だなって」

かもめんたる
最近はYouTubeの撮影も増えたかもめんたる

── 厳しいですね。ただ、カレー屋を始めたのが2020年でコロナ禍です。槙尾さんに限らず、ほかの芸人さんも仕事について試行錯誤していた時期だと思います。コロナ禍に店を始めたタイミングについてはどう思いますか?

 

槙尾さん:かなりいいタイミングだったと思います!コロナ禍でも仕事がありましたし、カレー屋だけで月収20万〜30万円を確保できたのは大きかったです。以前は「芸人がほかの仕事をするなんて…」と芸人仲間の間でも少しネガティブな空気もありましたが、コロナ禍以降は変わりました。とくに隠すものではなくなって働きやすくなりましたね。

 

店をオープンして6年経ちますが、カレー屋の社長を紹介してくださった人にも、社長にもすごく感謝しています。改めて人との繋がりは大事だと思いました。家族にもずっと心配を掛けてきましたが、少しは安心してもらえたらいいな、と思っています。

 

── ちなみに、カレー屋を始める前からラジオ番組でのケンカが発端し、相方・岩崎う大さんと10年近く仲が悪かったと伺いました。しかし、カレー屋を始めて数年、関係性に変化が起きたそうですね。

 

槙尾さん:当時はかもめんたるの仕事が激減し、僕に対する不満も溜まっていたと思います。ラジオ番組でケンカしてから、一時期は解散の危機もありました。でも、それから10年近く時間が流れ、少しずつ気持ちが変化してきたのかな。最近はう大さんも今はかなり丸くなってきた感じがします。僕自身、最近は何か言われても、とくに言い返すことはないですね。言い返したところで相手が「たしかにそうだね、俺が悪かった」とは絶対にならないですし。今は何を言われても基本的には受け入れて、ときには流し、できることなら笑いで返す。常に気分よくいられるようにしています。う大さんの書くネタが面白くて、この人と一緒にお笑いをやりたいと思ってコンビを組んだので、その気持ちを忘れないようにしています。

 

また、う大さんも他のインタビューで、僕がカレー屋をはじめてから接しやすくなったと書いてあるのを見たので、お互い様なのかなとも思うんですけど。う大さんから「YouTubeの撮影をしよう」と言ってきてくれることが増え、よかったなと思います。

 

── 紆余曲折あった槙尾さんですが、キングオブコントで優勝後に生まれた息子さんは、今中学1年生になったそうですね。もし、息子さんが将来芸人になりたいと言ったとしたら、父としてどう思いますか?

 

槙尾さん:1回やってみたらいいと思います。僕も親にやりたいことをやらせてもらってきたし、やりたいことができないのは一番の不幸だと思うんです。うまくいかなければ違う方法を考えればいいし。芸人のサービス精神は他の仕事でもいかせると思いますし。

 

── まさに今の槙尾さんのようですね。改めてご自身の人生を振り返ってどう思いますか?

 

槙尾さん:俯瞰で見れば面白い人生だなと思います。キングオブコントで優勝して栄光を掴むも、仕事がなくなって不動産の営業をして…その仕事さえなくなったときは本当につらかったです。でも、そこからカレー屋を始めて生活が安定したし、自分の視野も広がりました。僕は人を信じやすい面があって、いい方向にも悪い方向にも進みますが、カレー屋に関しては、確かに詐欺にはあったけど、早い段階からデリバリーもはじめて結果的には大繁盛したし、よかったのかなと思います。この先もいろいろなことがあると思いますが、どうにかやっていけそうな気がしています。

 

取材・文:松永怜 写真:槙尾ユウスケ