40代から不妊治療を始め、3度の流産を経験したニューヨーク在住のいとうさん。子どものいない人生を考え始めながらも、代理母出産に最後の望みを託す決意をします。同時に、最後のあがきと不妊治療も続けたところ、自身と代理母、ほぼ同時期に妊娠が発覚します。

夫から「ふたりの生活もいいんじゃない?」と

いとうゆき
夫婦でコスタリカに行ったとき、妊活中も旅行は楽しんだ

── 40歳から不妊治療を始め、途中で卵子提供も試みましたがうまくいかず、3回流産を経験したいとうさん。3回目の流産は49歳だったそうですが、その後は不妊治療に対してどんなことを思いましたか?

 

いとうさん:まだ頑張りたい気持ちがわずかに残っていましたが、50歳を過ぎて出産する人はほとんど聞かないし、子どもがいない人生についても考えはじめました。子どもがいない人の本もたくさん読んだし、犬を飼って、犬へ愛情を注ぐことで子ども以外のことに意識を向けようとしました。友達と旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、子どもがいなくても違うことで楽しみを見つけるように、自分なりに気持ちを切り替えようとしていたと思います。

 

ちょうどコロナ禍に入ったことで、私が住むニューヨークは大きなロックダウンがあって、家から3か月一歩も外に出ませんでした。病院に行くのもままならず「そろそろ辞めどきなのかな」とも思っていたんです。

 

── 旦那さんはいかがでしたか?

 

いとうさん:夫は私がこれ以上、不妊治療でつらい思いをするのはかわいそうだし、もういいんじゃないか。でも、私がやるならサポートするよという感じでした。「不妊治療を辞めろ」とは言われませんでしたが、「ふたりの生活もいいんじゃない?」とチラホラ言われ始めるようになりました。

不育症の懸念で手術を決意した夫の忘れられない顔

── 50歳になる前に旦那さんの不育症の可能性も考えたそうですね。

 

いとうさん:不妊治療をはじめて早い段階で私も夫も身体のチェックをしてもらいましたが、精子の数や質、運動率は非常にいい結果でした。でも、10年以上不妊治療をしてもなかなか授からないので、再度、別の病院で検査をしてもらうことになったんです。その結果、私には不育症の兆候はまったく見られませんでした。私の身体が着床しようとしている子どもを追い返しているのかと思っていたので、ずっと申し訳ないと思っていました。でもそうじゃなかった。自分に問題がなかったとわかって正直ホッとしました。

 

しかし、軽度ですが、夫の精管に問題があるかもしれないと言われました。夫は注射を見るのが苦手で、私が採血しているのを見て倒れたこともあるんです。でも医師から将来を考えて手術を進められると、迷うことなく「すぐにお願いします!」と言いました。手術当日、病院に向かうタクシーの中で私の手をギュッと握り「大丈夫だよ、心配しないで」と言いました。病院に到着して、手術着に着替えて笑顔で「行ってくるね」と言った顔は忘れません。

 

── 手術は無事に終わりましたか?

 

いとうさん:終わりました。もともと症状は軽度でしたし、手術でとくに何かがすぐに変わったわけではありません。でも、夫が子どものために行動してくれたことが、私には嬉しかったんです。

 

違う病院でも、医師から夫について「変わっているところはないですか?」と聞かれました。夫は中国系のインドネシア人ですが、夫は自分の国では一番優秀な大学を卒業しているし、会社で面白い提案をして意見が採用されたり、プロジェクトでリーダーを任されたりと尊敬している部分がたくさんあるんです。

 

でも、極端に方向音痴でもありました。普段からよく道に迷うし、引っ越しをしたら帰って来られない。ほかにも気になっていることを医師に告げると、もしかしたら自閉スペクトラム症の可能性があるんじゃないかと言われました。自閉スペクトラム症と不妊の関係を研究している医師でしたが、研究段階ですし、確定ではないかもしれません。それでも少しでも可能性があるなら違う方法も考えようと思い、精子提供を検討しました。

 

今まで卵子提供を受けたことはありますが、今度は卵子提供と精子提供を受けて受精卵を作り、私のお腹の中で育てようと思ったんです。私たちの卵子も精子も使えない状況ですが、できることはやってみようと思ったんです。

 

── うまくいきましたか?

 

いとうさん:いえ、それでも妊娠はしませんでした。いよいよ諦めようと思っていたら、今度は夫の会社で養子縁組と代理母出産について、会社から経済的支援をするという制度ができました。ここで、改めて自分はどうしたいのか考えてみると、私は自分の身体を使って産み落とすことが目的なわけではなくて、子どもを育ててみたい気持ちのほうが大きい。それなら自分が出産しなくても養子を取ればいいんじゃないかと思ったんです。

 

夫に相談すると賛成してくれて、養子縁組のエージェントに登録。夫婦で研修も受けましたが、アメリカでは養子縁組が珍しくないので、なかなか順番が回ってきません。すると、養子縁組のエージェントから連絡が来て「代理母だったらいます」と言われました。