「はい、わかりました」に支えられた

金井勇太
NHKの連続ドラマ小説『風、薫る』の舞台裏

── ご自身の体のことより、まずはお仕事のことを心配されたんですね。

 

金井さん:脳梗塞と言われた瞬間、「舞台をどうしよう」という想いのほうが強かったですね。ただ、そうは言っても命に関わることなので、事情を話すために舞台の責任者である牧野プロデューサーに電話をして状況を伝えることに。すると、話を聞いた牧野さんは驚く様子もなく落ち着いた声で僕に「はい、わかりました」と言ったんです。

 

── 想像と違っていた?

 

金井さん:もっと慌てて困るだろうと思っていたのですが、反応は予想とはまったく逆。実はリハーサルの僕の様子を見て、演出の中本吉成さんの的確な判断もあり念のためにすでに代役を立てていたそうなのですが、そのときの僕はそれを知るはずもなく。「はい、わかりました」という冷静で僕に心配をさせないようにする牧野さんの言葉で、パニックだった僕も落ち着くことができ、治療に専念できました。聞いた瞬間にそれが嘘偽りのない言葉だとわかる言い方でしたね。

 

── 降板された初日は大阪公演だったそうですが、結局その後の舞台も代役の方がずっと演じられたのでしょうか?

 

金井さん:治療により体調はすっかりよくなったのですが、1か月ほどは無理をせず仕事は様子を見ながら徐々に再開していくことに。そのため、この舞台はすべて降板することにしました。退院後に東京公演を見に行ったのですが悔しい気持ちはなく、最初から号泣してしまいました。僕が穴を開けてしまった舞台をしっかりとつないでお客さまに届けてくれたことが、本当にありがたかったです。

 

牧野さんの言葉の賞味期限はとても長く、いまだに僕を救ってくれた言葉だと思い出すことが多く、心の支えです。初日の舞台が公演できていなかったら、いまだに気持ちを引きずっていたと思うので、安心する言葉をくれたこと、舞台をつなげてくれたことに感謝しています。

 

取材・文:酒井明子 写真:金井勇太