40歳で脳梗塞を発症した、俳優の金井勇太さん。病気がわかったのは舞台初日本番の1時間半前という最悪のタイミングでした。今後のキャリア以上に心配だったのは、舞台に穴を開けるということ。すべての責任を負う覚悟だった金井さんを救ってくれたのは、プロデューサーの「はい、わかりました」という言葉だったそう。この言葉に今でも金井さんは支えられているそうです。

脳梗塞の公表で仕事への影響を心配

金井勇太
NHKの連続ドラマ小説『風、薫る』では、医師役を熱演(C)NHK

── 2025年6月、40歳のときに脳梗塞を発症しました。入院をして投薬治療されたそうですが、俳優としても順調だった時期にキャリアへの不安も大きかったのではないでしょうか?

 

金井さん:脳梗塞がわかったときは今後も俳優の仕事ができるのか、不安になりました。結果的に後遺症がなかったので役者の仕事に影響はなかったのですが、病名を公表するかは少し悩んだ部分があります。脳梗塞と公表することで「金井さんはもう俳優業は難しい」「きっと話すことに後遺症があるからキャスティングは避けたい」など、勘違いをされることを恐れました。

 

── でも、結果的にはご自身のSNSで公表されていましたね?

 

金井さん:当時、出演予定だった舞台を降板したのですが、最初は体調不良のためと発表しました。詳細を公表しなかったので、SNSなどで「結局どこが悪いのだろう」と詮索されて根も葉もない噂を立てられるのも嫌だなと。ならば脳梗塞のことを公表したうえで、今後回復したことまでしっかり見てもらおうと思いました。それが自分の名前が広まるきっかけになるかもしれないし、病気で一度つまずいてしまいましたが、「転んでもタダでは起きないぞ」という気持ちもありましたね。

 

── 最近ではNHKの連続ドラマ小説『風、薫る』に出演されるなど、回復後のご自身もしっかりアピールできていますね。

 

金井さん:朝ドラは今までも出演したことがあったのですが、久しぶりのオファーだったのでとてもうれしかったですね。今回はお医者さんの役なのですが、自分が脳梗塞で診察してもらったときの医師が冷静に対処してくれたことがすごく印象的で。それで僕も慌てずに自分の症状と落ち着いて向き合えた部分がありました。なので、演じるときもそのときのことがベースにあったような気がします。

1000万円の借金を背負う覚悟だった

── 病気を経験して変化はありましたか?

 

金井さん:今回は大丈夫でしたが、もしまた自分になにかあったときに備え、家族を守るために俳優以外の仕事もしていかないとと思いました。当時はまだ小学生の子どもがふたりいたので。

 

実は以前から若手俳優や俳優を目指している人のために、演技のワークショップを開催していたんです。ただ、昔はちょっととんがっていたので、ワークショップで演技指導するのは売れていない役者がやることだと思っていて。だから、自分がいざやることになっても恥ずかしい気持ちが大きく、こっそり開催していました。

 

でも、脳梗塞後はそう言っていられないと思い、最近はオープンに行うようになりましたね。妻も興味を持ってくれたようで、裏方として楽しんでいろいろ手伝ってくれています。

 

── たしかに病気を経験されるとご家族のことは心配になりますね。

 

金井さん:実は僕の脳梗塞がわかったのは、出演予定だった舞台「揺れるはざまのトラベラーズ」の初日の本番直前だったんです。医師から脳梗塞だと言われた瞬間に頭に浮かんだのは、1000万円以上の借金を背負うかもしれないということでした。家族にも迷惑がかかるしどうしようと。

 

── 1000万円というのは治療にかかるお金…ということですか?

 

金井さん:違うんです。実は脳梗塞の症状である呂律が回らないなど体の異変を感じたのは、出演予定だった舞台の初日本番のリハーサルのときでした。念のため病院に行って検査をした結果、脳梗塞だと言われたのは本番のわずか1時間半前。僕の役はセリフも多かったのでこれから代役を立てるのも難しいだろうし、きっとこのままでは初日の幕は開かずに公演できないだろうと瞬時に思いました。

 

初日に予定していたチケット代やグッズ販売予定の金額、場所代などを合わせると1000万円は超えるはず。一緒に舞台を作ってきた制作会社などに迷惑をかけるわけにはいかないので、その金額を自分で背負う覚悟でいました。