現場に「トイレがない」ことに驚いて発信

── SNSでは「重機女子」として、女性オペレーターならではの視点で積極的に発信されています。

 

東さん:最初は、まだ会社勤めで「置き場」の土を動かしていた頃、「重機のカッコよさが一般の人に全然伝わってない!」というもどかしさから、重機の写真を上げていただけなんです。そのうち、ユンボ(油圧ショベル)でペットボトルのふたを開ける動画がバズって「重機女子」と名乗るようになりました。

 

その後、実際に現場に出てみたら「トイレがない」という問題にぶつかって驚き、5年ほど前からそのことを積極的に発信するようになったんです。家屋やビルの建築現場では仮設トイレを見かけるかもしれませんが、私が関わる山や河川の土木工事現場だと、トイレがないこともあるんです。

 

男性は重機の陰に隠れて用を足すこともできるかもしれませんが、それが前提となっていて、車で移動しなくちゃいけない遠方にしかトイレがないということが、当たり前のようになっていることに驚きました。実際、そのせいでトイレを我慢することが増え、何度も膀胱炎を患いました。

 

── 現場仕事は男性が中心で作業環境のアップデートができていないという問題があるのかもしれませんが、それでは健康に影響がありますよね。

 

東さん:ある河川の現場では、重機で川を渡って15分くらいの場所にしか共有トイレがなくて。そんなに長時間作業を中断できないので、小さな簡易トイレを持ち込むようになりました。自分の作業エリアの隅に小さなテントを張り、一見スツールに見えるボックス状の簡易トイレをそこに置いて用を足していたんです。

 

現場監督はそれを知っているはずなのに、「トイレの環境を整えよう」とは誰も言い出さない。これでは女性の重機オペレーターなんて増えないし、一生この仕事を続けたい私にとっても大問題だと思い、「#重機女子」というハッシュタグを付けてトイレ問題を提起し続けました。そしたら、全国から「私も同じことで悩んでます」と共感の声が集まって、広く土木に関わる女性達とつながるようになり、ついに行政に訴えることになったんです。 

重機女子ネットワークの訴えがついに行政に届いた

── どうやって訴えていったのでしょうか?

 

東さん:SNSでつながった方が、女性の職場や生活環境改善を推進している東京都議会議員を紹介してくださり、直接話を聞いてくださいました。そこから人の輪が広がり、女性活躍のための都庁での会議に参加させてもらって発言したり、東京都知事に直接訴えかける機会をつくってもらったりしました。建築や土木関係だけではなく厚生労働省の分野など法律もいろいろと調べて意見を上げ続けた結果、東京都からは「女性の活躍推進助成金」として、工事現場の仮設トイレにも助成金が出るようになりました。

 

── 重機女子のつながり、すごいですね!

 

東さん:さらにその後、若手建築業者や関係者が集う「全国建設青年会議」の全国大会にパネルディスカッションの登壇者として参加させてもらう機会を得ました。その大会は全国から600名近くの参加者があり、国土交通大臣はじめ国会議員の方も多数参加されていました。そこで建設業に強い国会議員と知り合い、重機を扱う工事現場のトイレ事情をお話しすることができたんです。

 

そしたら議員さん側では「快適トイレ(仮設のトイレ)があるからそんなに不自由はない」と思っていたようで、そのトイレまでの距離が遠くて行けないことがあるという現実を知らなかったんです。建設業で働く女性関係者は切実に悩んでいると訴えて、今までトイレの数が男女一基ずつしか助成金が出なかったのが、個数の制限が撤廃される方向に進んでいます。

 

── これで全国の重機女子が働きやすくなるといいですね。

 

東さん:とはいえ、重機を扱うのは本当に命がけですし、工事現場では毎日ヒヤッとするようなシーンもあるので、簡単におすすめできる仕事ではありません。でも、毎日危険と隣り合わせだからこそ、生きている喜びを感じますし、「子どもたちと暮らせる幸せが当たり前じゃないんだ」と感謝の気持ちを常に持てるようになりました。

 

私自身は、ユンボと出合ってから人生がガラッと変わって、心の健康や幸福度が爆上がりしたんですよ。崖っぷちのワンオペ育児を乗り越えてきたからこそ、「ウェルビーイング」な今があると思います。ユンボが好きすぎて2、3日乗らないと不安になりますし、早く現場に行ってユンボに乗りたいから、家事を爆速で終わらせているくらい。ぶっちゃけ、仕事より家事のほうが疲れます(笑)。でも、そこまで夢中になれるものに出合えて、それを生業にできているのは本当に幸せです。

 

取材・文:富田夏子 写真:東香織