2児のシンママとして現場で働くかたわら、「重機女子」として発信を続ける東香織さん。「ユンボ」と呼ばれるショベルカーに憧れて現場に出たものの「女性が使えるトイレがない」という現実に愕然としたそう。その問題提起が、やがて行政までも動かす流れを作ることになります。

結婚11年で離婚し、2人の子どもと新生活へ

東香織
たまたま工事現場で見かけたユンボに魅了されて

── 2児の母として子育てしながらパートに出ていた頃、工事現場で「ひと目惚れ」した重機の運転に憧れ、資格を取得して実際に「ユンボ」(油圧ショベル)を運転する仕事に就いた東さん。ご主人とは結婚生活11年を迎えた頃に離婚されたそうですね。

 

東さん:はい。22歳で結婚し、33歳の時に別れました。私自身、お互いに悪口を言いながら別居までしているのに離婚しない両親に育てられ、自己肯定感が低いまま大人になった自覚がありました。だから、私は夫とうまくいかなくなって悩んだ末、愛のない家庭で育つよりは離婚して、私らしく生きられる環境で育てたいと思いました。当時、小学5年生になる息子と1年生の娘、子ども2人を連れて家を出て行くことになったのですが、家探しは難航しました。

 

── お子さんの学区内で、間取りや家賃など、条件に合う家がなかなか見つからなかったのでしょうか?

 

東さん:それもあるのですが、住んでいた家を出ることを長男がいちばん悲しんでいたので、息子が納得する家が見つかるまでとことん探そうと決めたからです。いろんな物件を見たなかで、息子が「この家がいい」と唯一言ってくれたのが、44平米の1LDKアパート。親子3人で住むには手狭だったのですが、押し入れが気に入った息子がそこで寝たいというので、その物件に決めました。

 

慣れない土地で1年生になったばかりの娘に交通ルールをきちんと教える時間もないまま学校に通わせることになったのは心配でしたし、申し訳なかったです。

仕事のチャンスと小1の壁が重なって

東香織
ユンボの個室の空間も居心地がいいという

── しかもその頃、やりたかった仕事の現場に行けるチャンスが巡ってきたそうですね。

 

東さん:そうなんです。当時、重機を動かす仕事はしていたのですが、あくまで会社の敷地内にある「置き場」(重機や資材、土などを保管する場所)で土を運んだりふるいにかけたりする作業が中心。「早く現場に出たい」と周囲に伝えていました。それがこのタイミングで叶ったんです。

 

ただ、その現場は家から遠くて、朝6時には家を出ないと間に合わないし、帰宅も7時頃になる。子どもより早く家を出ることになり、学童のお迎えもギリギリという感じなのでものすごく悩みました。でも、現場未経験の女性オペレーターを使ってもらえる機会はこの先訪れるかわからない。シングルになった今は稼ぎも必要だと思って、行くことに決めました。

 

── お子さんは自分たちで朝支度をし、小学校に行ってもらうことになったのですね。

 

東さん:朝4時半に起きて朝食を作って家を出て、現場に向かう途中、何度か車を停めて電話をして、起こしたり準備ができているか確認したりしていました。仕事が終わったら急いで子どもを学童に迎えに行き、晩ごはんを食べさせてお風呂に入れて倒れるように眠る、という生活でした。長期休みには朝食に加えてお弁当も必要でしたし、ひとりで学童へ向かわせることの不安など、現場に出たことで「これが小1の壁か」と改めて痛感しました。

 

今振り返っても、離婚、引っ越し、遠方の現場仕事と小1の壁が重なった、あの時がいちばん大変でしたね。子どもに罪悪感を持ちながら働いていました。ただ、娘はいつも明るくて毎日楽しく過ごしてくれていましたし、息子も妹の面倒をよく見てくれていたのが何よりも救いでした。

 

── ハードな日々を乗り越えて、その後は独立されました。

 

東さん:現場経験を積むことができたことで、「もっといろんな現場で重機を運転したい。他のオペレーターさんの技を見てスキルアップしたい」という気持ちが強くなっていったんです。それで2021年、36歳の時に思いきって「ひとり親方」として独立し、個人事業主になることを決めました。おばあちゃんになるまで重機に乗っていたいから、早く独立したほうがいいという思いもありました。その後、以前ユンボの運転を見てユンボにひと目惚れしたきっかけになった方に社員になっていただき、ずっと一緒に仕事をしたいと考え、2025年には法人化をしています。