工事現場で見たユンボにひと目惚れ
── そのパート先で、今に繋がる「ユンボ」との運命的な出合いがあったそうですね。
東さん:タクシー会社の隣が工事現場だったのですが、掃除をしながら窓を開けたら、ものすごく大きなユンボ(油圧ショベル)が入ってくるのが見えて、私の目はそのユンボに釘付けになったんです。ひと目惚れに近い感情が湧いてきて、パートに行くたびに工事現場を眺めていたら、「なんてカッコいいんだ」って、もう虜になっちゃって。
そのうち、誰が操縦するかによってユンボの動きが全然違うことに気がつき、「どんな人が運転しているんだろう」と思って見ていたら、運転席のドアから青いヘルメットをかぶったドラえもん体型のおじさんがコロンと降りてきてびっくりしました。大きな重機はガタイがいい男の人じゃないと運転できないと思っていたので、「そうでもないなら、私でも運転できるんじゃないかな。やってみたい!」と思うようになったんです。
── 憧れを超えて、「自分も乗ってみたい」という気持ちになったんですね。
東さん:ある日、パート先の近所にあるコンビニへ行ったら、重機を運転していたおじさんと遭遇したんです。向こうも気がついて「いつも俺のこと見てる子だよね?」と言われたので、即、「あなたじゃないです。重機を見てるんです!」と返しました (笑)。その勢いで「あの重機を運転したいんです」と伝えると、「資格を取ってきたら乗せてやるよ」って言われました。もちろん向こうは冗談だったと思うのですが、私は本気で乗りたかったんです。
調べると、大型特殊免許を先に取得するのが時間的にも費用的にも近道だとわかりました。大型の特殊車両なんて乗ったことないから「どうやって乗るんですか?」というところからスタートし、5回目のチャレンジでやっと合格。その流れでユンボの運転資格も取得し、例のおじさんに「資格取って来たからユンボに乗らせてください!」と直訴しに行きました。
── まさか本当に資格を取るとは思われていなかったですよね?きっと。
東さん:驚かれましたが「そこまで本気なら」と、重機の取り扱いがある会社をいくつか教えてくれました。その頃には、一時保育でしのぎながらパートを続けるのにも限界を感じていたので、子どもを保育園に入れるために就職したい気持ちも大きくなっていました。ただ、未経験で子持ちの主婦がユンボを運転したいと言っても、どこも雇ってくれないわけです。面接に行っては落ちるのを繰り返して諦めかけた時、先ほどのおじさんの知り合いの会社が、工場置き場(重機や資材、土などを保管する場所)の敷地内で少し土を動かすことができて事務員も兼ねてくれるような人を探していると知って。すぐに面接を受けに行くとフルタイムで採用され、おかげで子どもたちの保育園も決まりました。
ユンボで取り戻した「本当の自分」
── 夢がかないましたね!実際に建設業界で働き始めていかがでしたか?
東さん:最初はユンボを動かす機会はそんなに多くなくて、事務の仕事を覚えるのに必死でした。建設業の事務はちょっと特殊で聞いたこともない言葉がいっぱい飛び交っていて、毎日頭がパンパンに。でもその時に覚えた事務が、独り立ちしたいま、ものすごく役立っています。
入社して2年が経った頃から、会社が持っている広い置き場で日常的にユンボの運転をさせてもらえるようになりました。そこで大型ダンプが運んできた土を積み上げて山にしたり、あとはふるいにかけて石を取り除いたり、それをまたダンプに積み込んだり。勤務時間中はずっと大好きな重機に乗っていられる状態になり、まさに願ったりかなったりの日々が始まりました。
── そこまでのめりこむ重機の魅力は何ですか?
東さん:ユンボみたいな大きな重機を、レバー操作だけで自由自在に動かすことができるところが魅力です。重機オペレーターの仕事は、現場によってやり方やできることが違うし、ある現場で「かなりできた」と思っても別の現場では通用しないなど、極めても頂点がない仕事。おばあちゃんになるまでこの仕事を続けたいけれど、その時に自分がユンボを極められているかはわからないくらい奥が深いんです。
毎日毎日できることが増えていくし、安全に作業するなかでいかに丁寧に効率よく業務を進めるかを考えるのが好きで、その通りにできた時に幸せホルモンが出まくる感覚があるんです。あと、運転席が個室なのも、黙々と仕事がしたい私には合っています。もう、ユンボ以上に夢中になれるものには出合えないかもしれないですね。
── 重機についてお話しされる姿を見ていると、幼少期から自己肯定感が低かったというのが嘘のようですね。
東さん:本来の私は全然コミュ力が高くないんですよ。こんなに語れるのは重機のことだけです。ユンボの魅力を発信しようと始めたInstagramでも、最初は誰かとつながるつもりもなくて発信するだけでした。でも、全国の重機を運転している女性たちとフォローし合うようになったら、SNS上で重機について語り合えるようになり、「実際に会ったこともない私のために時間を割いてDMやコメントをくれている」というのがすごく嬉しくて。そうした「重機女子仲間」が支えとなり、自己肯定感が回復していきました。
── 幼少期はご両親からあまり褒められたことがないとおっしゃっていましたが、母親になった今、ご自身のお子さんにはどんな言葉をかけていますか?
東さん:子どもに対しては自分を自分で認められるように、「かわいいね」って口に出して言うようにしています。実際、脱ぎ散らかした靴下すら愛おしいって思っちゃっています。でも、本当は、自分自身が親からかけて欲しかった言葉だったなとも思うんですよね。重機のおかげで自己肯定感が回復したから、自分が得られなかった優しさや思いやりを持てるようになったのかもしれません
ユンボに乗り始めてから数年後、夫とは離婚したので、実はいまはシングルなんです。自分の両親を反面教師に、というわけではないですが、互いにいい感情がないのに一緒にいることは避けたかったので、この決断に至りました。でも、かわいい子どもたちを残してくれたので本当に感謝していて、この子たちのために生きていこうと思って今は頑張っています。
取材・文:富田夏子 写真:東香織