家族関係の決着のつけ方は人それぞれ
── 仕事に復帰されてから、3か月後にお母様はお亡くなりになったと…。
白井さん:母のがんは非常に珍しいタイプで、あっという間に進行してしまいました。葬儀に出て、遺産相続の話が終わってからは父親と連絡をとっていません。
── 家族と断絶したことで、白井さんのなかで変わったことはありましたか。
白井さん:自分なりにけじめをつけたことで、どんより曇っていた空に光が差したように、だいぶ心が軽くなりました。マイナスだったのがゼロ地点に戻ったというか。
家族仲が悪かった人のインタビューを読むと、「本心をさらけだして家族とケンカして、やっとわかり合えた」という体験談がよくありますよね。世間ではそれが関係修復のための正しい方法みたいになっていて、僕も若かったころは家族と大ゲンカをして、心から兄のことを助けたいと思ったら、自分の人生が開けるのではと思っていた時期もあったんです。
でも自分は絶対したくなかったし、実行したところで、本心からそう思えないと感じて。実家と縁を切った今も、自分は自分のやり方でよかったと思っているし、正解の導き方は人の数だけあると感じています。

── その後、35歳できょうだい児のための交流サイト「Sibkoto(シブコト)」を立ち上げられました。ネット上にきょうだい児がコミュニケーションできる場を作ろうと思ったのはなぜでしたか。
白井さん:僕が中学校、高校生くらいのときに、自分の本音を言える人がひとりでもいたらよかったという思いが立ち上げの理由でした。障害のある兄弟姉妹に対しても、やっぱり好き嫌いはあるし、嫌いな感情があってもいいんだよと当事者に気づいてほしくて作った部分もあります。Sibkotoは中立的なサイトなので、ネガティブな投稿だけじゃなく、「うちの障害のある弟はすごくかわいい」とか、ポジティブな投稿もしていいんですよ。
── 負の感情も出せるところがあるべきで、そうじゃないと救えない人がいるからこそ作りたいと思ったんですね。
白井さん:そうですね。ネガティブな感情を当事者以外の人に伝えると、「でも、きょうだいなんだから助けないと」など、正論で返されてしまうことが多くて。やっぱりきょうだい児同士でしかわからない本音を言える場所が必要なんです。自分と立場が似た人に意見を求めたり、あるいは愚痴でもなんでも書いてもらって、ちょっと心が軽くなったらいいなと。サイトという場所を提供しているだけですが、Sibkotoの活動を通して、誰かの役に立てている実感があります。
お互い助けたいと思う気持ちがあってこそ「家族」
── その後、38歳でご結婚されました。
白井さん:ひとりで過ごすよりふたりで過ごしたいと思える女性に出会い、子どもにも恵まれました。自分の家庭を持てるまで前に進めたなと実感しています。
子どもが1歳を迎えて夫婦ともに大変な毎日ですが、ちゃんと過去の家庭環境のことを整理していたおかげで、父親としては不安よりもうまく育てる自信のほうが大きいです。僕が子どものころは習い事もせず、家族旅行もしなかったので、他の子との体験格差があまりに大きくて。だから、うちの子には向いていることや楽しい体験をたくさんさせてあげたい。こういう家族でありたかったというのを実践しているところはありますが、自分がやってほしかったことを押しつけたくないとも思っています。

── 世の中には「家族は支え合うもの」という規範意識が根強く残っていて、それゆえに家族との関係性に悩む人も多いと思います。そういう方へのアドバイスはありますか。
白井さん:「家族なんだから、みんなで支え合いましょう」って正しく聞こえるんですけど、よく考えると、家族ってひと言でくくれるものじゃないんです。夫婦はお互いの意思で家族になりますが、その意思がなくなったら離婚できる。親も「この子を産んで育てよう」と自分の意思で決意した瞬間があるはずです。でも、子どもや兄弟姉妹の立場って自分が望んでなったわけじゃないですよね。自分たちの意思で家族になった立場の人と、強制されて家族になった立場の人がいるのに、なぜか同じ「家族」でくくられている。そう考えると、子どもに虐待していた親が「家族なんだから、私の面倒を見ろ」と子どもに言うのはすごく理不尽なことで。本来は「あなたのことを助けたいから、私たち家族だよね」というカタチが正しいと思うんです。
── 家族は関係性で固定されるんじゃなくて、気持ちが優先されるべきだと。
白井さん:そうですね。お互いを助けたいって気持ちが先にあるべきだと思います。だから「家族だから助けなきゃいけない」と思考停止にならないで、親や兄弟姉妹はこれまでどんなことをしてくれて、自分にとってどういう存在なのか、改めて考えないといけない。その結果として、親やきょうだいを助けたほうが自分の心が落ち着くとか、ハッピーになるのであれば、そうすればいいですし。関係性に縛られずに、もう少し自分本意で考えたほうが、ラクになれるんじゃないかと思います。
取材・文:小新井知子 撮影:岡 利恵子(本社)