水難事故は年間1500件「水の怖さ」知って

── 水辺のレジャーを楽しむ方が多い季節ですし、来月からは夏休みも始まります。そのいっぽうで、毎年水の事故があとを絶ちません。

 

萩原さん:すごく悲しいですし、どうして起きてしまったのだろうといつも考えています。水難事故は、海や川、プール以外でも、水が数センチあったら起きる怖いものです。2024年の警視庁の統計では、水難事故は年間約1500件も起きていて、死者や行方不明者の数は約800人。水は楽しい反面、怖さがあるということをきちんと知っておかなければならないと思っています。

 

── 萩原さん自身は、「海で溺れかけたこと」をきっかけに水泳を始めたそうですね。

 

萩原さん:そうなんです。まだ泳げなかった小学2年生の夏休みに、父と一緒に海でゴムボートから飛び込んで、バシャバシャはしゃいで遊んでいました。ふとした瞬間に、足がつかなくなり溺れそうになったことがあったんです。「なんですぐ助けてくれなかったの」と父に言うと、父は笑って「智子が一生懸命泳いでると思ったから」と。その言葉を聞いて、恐怖よりも、負けず嫌いに火がついて、「お父さんをびっくりさせるくらい、うまく泳げるようになってやる」と思ったんです。それで、夏休み明けからスイミングスクールに通い始めました。ただ当時を思い返すと、父がその場で一緒にいてくれて良かったと心から思います。

 

── そこからオリンピック選手に!お父さんが「溺れた」と慌てていなかったのがよかったのかもしれませんね。萩原さんは息子さんがいらっしゃって水泳を習っているそうですが、小さいうちからどんなことを学んでおくべきだと思いますか。

 

萩原さん:やはり幼少期に「水に入ると冷たい」「水に入ると重たくなる」「潜ると息が苦しくなる」など、水中で経験する時間を、大事にしてほしいと思います。水の事故は服を着た状態で起きることも多いので、着衣水泳はすごく大切だと思っています。

 

── 私自身は着衣水泳の授業が学校であったのですが、今はどうなっているのでしょう。

 

萩原さん:着衣水泳は義務化されていません。学習指導要領には「各学校の実態に応じて取り扱うこと」と記載されており、各学校に実施の判断はゆだねられています。息子が通う小学校では6年生が夏休み前のプールで着衣水泳をするそうです。

 

以前、日本水泳連盟が各地で着衣水泳の普及をしていた際、現場へ行くことがありました。オリンピック選手であっても服を着ていると重くなり、体がいうことを聞きません。靴をはいていたらなおさらです。着衣するとスムーズに泳げないオリンピック選手の姿を見て子どもたちは驚いた顔をしていました。想像以上に体は重くなるので、焦ってバシャバシャともがいたり、泳いだりするのではなく、浮いて助けを待つというスキルも学んでおくべきだと思っています。着衣水泳を実施する場合も、安全には気を付けなければなりません。大人数で一度にはできないので人数を分けることや、十分な監視体制も大切になってくると思います。

形が変わっても「水への学び」途切れさせないために

── 家庭で子どもに教えておくべきことはありますか。

 

萩原さん:ご家庭で、水辺のルールや危険について普段から話をしておいてほしいと思います。アクアキッズセーフティープロジェクトさんの「サンダルバイバイ」という言葉がとても覚えやすいです。「もし川や海でサンダルが流されても追いかけずにバイバイしてほしい」と、ご家庭で子どもたちに伝えてほしいです。

 

子どもは「気に入っている」「なくしたら怒られる」と思って、サンダルやおもちゃ、ボールが流れてしまったら取りに行こうとするので、事前に声かけをしているだけで違うと思います。また、水辺で過ごす際は、セーフキッズジャパンさんが普及している「ライフジャケットの正しい着用方法」の存在も忘れてはいけません。夏が始まる前や夏休み中には、地域で着衣水泳やライフジャケット着用体験をしているイベントもあるので、ぜひ参加してほしいです。

 

── SNSでも投稿されていましたが、水泳の授業の形態が変わりゆく今、改めて皆さんに伝えたいことをお願いいたします。

 

萩原さん:水は、すごく楽しいものです。でも、そうではない側面もあります。日本では戦後、水難事故から子どもたち達の命を守る必要性が高まり、学校プールの整備が進められてきました。背景には1955年の紫雲丸事故などによる安全教育への関心の高まりや高度経済成長期の学校施設整備、1964年の東京オリンピックを契機としたスポーツ振興の流れもあったとされています。私は、こうした歴史を振り返り、学校のプール授業には競技力向上だけではなく、「命を守る教育」という役割があるとあらためて感じています。

 

 

形は変わったとしても、子どもたちの水への学びを途切れさせないためにどうしていくべきか考える時期に来ていると思います。

 

取材・文:内橋明日香 写真:萩原智子