「優秀社員」に選ばれ重圧だけが増していき
── 同時に複数の処理をこなすことや、飛び交う情報を整理して組み立てることに大きなハードルがあったのですね。
なんばさん:なにより苦手だったのは、空気を読んで「察しろ」と求められる場面です。ある講習の場で、上司から強い口調で名前を連呼されたことがありました。具体的に「これをやって」と指示されるわけではなく、場の空気や怒りのトーンから「察しろ」と求められていることだけは伝わってくる。
でも、肝心の「今、何をすればいいのか」が僕にはわからなかったんです。上司がいらだっているのも、期待された動きをできていないこともわかる。けれど、上司の求める「正解の行動」が頭に浮かばないから、焦ってパニックになり、その場で固まってしまって。
── それでも5年半勤め続け、「優秀社員」に選ばれたこともあったとか。ご自身では、何が評価されたと感じていますか。
なんばさん:劇的に仕事ができるようになったわけではないんです。離職率の高い職場で辞めずに長く残っていたこと、土日出勤で同僚たちの溜まった仕事を裏方でサポートしていたこと。そういった姿勢が評価され、会社側が引き止めの意味も込めて持ち上げてくれたのかなと。
内心はプレッシャーでいっぱいいっぱいでしたが、感情があまり表に出ないタイプなので、「こいつ、やるな」と勘違いされていた部分もあったのでしょう。なにより職場の人間関係がよく、仕事の流れを熟知したベテランの先輩たちが優しくフォローしてくれていたからこそ続けられたんだと思います。
── ただ、周囲の評価と本人の実感がかみ合わないまま、期待だけが大きくなっていったわけですね。
なんばさん:正直、苦しかったです。昇進なんて全然考えていなくて、今のポジションのまま自分のペースでやれたらと思っていたのに、優秀社員に選ばれたことで求められる役割や責任が膨らんでいく。でも、実際は処理しきれずパンクしている自分がいる。周りからの見え方と、現実の自分とのギャップが苦しくなって、最終的に退職することにしました。
── その後、心の不調を抱えて受診した心療内科で、ご自身の特性に気づくきっかけがあったそうですね。
なんばさん:うつ病と診断され、医師の勧めで知能検査を受けたところ、発達障害(特にASD)の傾向が強いことに加えてIQ84という結果が出ました。僕が抱えていた生きづらさは境界知能だけが原因ではなく、こうした特性も重なり合っていたのだと思います。医師から「あなたは境界知能です」と診断されたわけではないのですが、自分で調べるなかで、知的障害には該当しないけれど平均域よりは低い「境界知能」という領域があることを知り、長年抱えてきた生きづらさの正体がようやく腑に落ちたんです。