「境界知能を知ってほしい」と自分を曝け出して
── 2020年からはその経験をYouTubeで発信し始めました。そこにはどんな思いがあったのでしょうか。
なんばさん:誇れるスキルや実績がない自分でも、経験を語ることで誰かの役に立てるかもしれない気持ちが強かったんです。実際に発信を始めると「自分もそうかもしれない」「救われました」というコメントをたくさんいただいて。それまでの人生では「集団の足を引っ張っているんじゃないか」と強い引け目を感じ続けていたので、自分の言葉が誰かに届いたことで、社会のなかにようやく居場所をもらえた感覚がありました。
いっぽうで「ただの仕事ができない言い訳だ」「努力が足りないせいでは?」といったネガティブな反応もありました。境界知能はそれ単体では制度上、障害として認定されないグレーゾーンのため、どうしても「結局は本人の努力次第」と見られやすいんです。
最初はそうした声には落ち込みましたが、すべての人に理解してもらうのは不可能ですから「その人はそういう意見なんだな」と割りきって、必要としてくれている目の前の人に目を向けるようにしてきました。

── 本人も周囲も理由がわからないまま、「要領が悪い」「なぜできない」とお互いに疲弊してしまう。こうしたすれ違いは、多くの職場に潜んでいると思います。なんばさんの経験から、お互いストレスを抱えずに働くためにはどのような関わり方が必要だと思いますか。
なんばさん:抽象的な指示や「察しろ」という関わり方を避けてもらえると、だいぶ違ったと思います。たとえば書類作成ひとつにしても、「この資料の何ページから何ページを参考に、この形でまとめて」と、範囲とゴールを示してもらえると、すごく動きやすくなるんです。
いきなり「自分で考えてやってみて」と言われると、どこから手をつければいいのかわからなくなるので、最初に「こういう順番で進める」「ここまでできたら次はこれ」と道筋を見せてもらえるだけで、安心感がまったく違います。できなかった部分を指摘される場合も、「何が足りなかったか」「次にどこを直せばいいか」を小さくわけて伝えてもらうことで、次の一歩が見えやすくなります。
取材・文:西尾英子 写真:なんばさん