会社員時代はろくに電話対応ができず、会議の議事録もまともに作れなかったなんばさん。上司から強い口調で名前を連呼され「察しろ」と促されても、何をすべきかわからずパニックになるばかり。後にわかったのは、複数のことを同時に処理することが苦手なのは、発達障害の特性や「境界知能」という周囲からは見えづらい知能の問題が、複雑に重なり合っていたことでした。

電話対応も議事録作りもできない自分

── 知的障害には該当しないものの、平均的な知的水準には届かない、IQ71〜84の領域を指す「境界知能」。人口の約14%、およそ7人に1人にあたるとされながら、本人の苦悩は周りから見えにくく、「努力不足」や「要領の悪さ」と受け止められてしまうことも。現在、YouTubeで当事者として発信するなんばさんもそのひとり。会社員時代は周囲も本人も理由がわからないまま、いくつもの困難を抱えていたといいます。

 

なんばさん:学生時代は「前にならえ」で周りに合わせてついていけば、なんとなくやり過ごせてしまう部分もあったので、何が苦手かはよくわからなかったんです。でも、社会に出て周りと仕事ぶりを比較される環境になって初めて、「できる人とできない人」で、決定的な差を突きつけられたというか。「自分は同じようにはできない」と気づかされたことから、一気に困りごとが表面化していったように思います。

 

── 具体的には、どのような業務に困難を感じていたのでしょう。

 

なんばさん:最初はパソコンを使った図面作成を担当したんですが、半年経っても作業の流れがまったく覚えられなかったんです。同時期に入った女性はすでにひとりで完成させているのに、僕は何度教えてもらっても完成しない。

 

学生時代の勉強と同じで、「どこがわかればできるようになるのか」という道筋が自分でも見えないから、何をどう質問すればいいかもわからなくて。教えられた知識が「点」のままで「線」にならず、右から左に抜け落ちていく感覚でした。見かねた別部署の方が声をかけてくれて、事務の部署に移ることになりました。

 

WAIS-III(知能検査)で境界線と示されている

── 情報や知識が線としてつながらなかった。事務に移っても、その感覚は変わりませんでしたか。

 

なんばさん:苦手なことは多かったですね。その筆頭が電話対応です。相手の話を聞きながら、同時にメモを取ることができない。聞くほうに集中するとメモが追いつかず、メモを書こうとすると話の内容を見失う。同時進行の作業が難しかったんです。

 

その様子を後ろで見ていた上司が「こいつダメだな」とあきれ顔をしているのがわかり、次第に電話が鳴るだけで不安になって、受話器を取るのを避けてしまうことも。会議の議事録を担当したときも、そもそも会議の内容や話のスピードについていけず、流れが把握できない。それを社内の人が読むためにどういう構造の文章に落とし込めばいいかもわからないんです。何度も修正が入り、それ以降は任されなくなりました。