驚きの五輪内定に「お金どうしよう」が率直な思い
── 娘さんがオリンピアンに決まったとき、どのようなお気持ちでしたか?
靖広さん:正直なところ「驚き」と、あとは「どうしよう」でした(笑)。五輪を現地に観に行くためのお金をどう工面しようかなと。
── 実際に現地で観戦されて、いかがでしたか。
靖広さん:五輪の雰囲気は独特で。ふだんの試合は競技に興味がある方のみが観客です。ナイスショットには歓声を挙げ、ミスは見守る。世界カーリング連盟の競技規則に記される「勝つためにプレーするが、決して相手を見下さない」とあるカーリング精神を尊び、ひいきしてないチームのプレーでミスがあっても、ファンも喜んだりしません。
でも、五輪は違って、初めて競技を観る方も多い。だから、応援するチームの対戦相手がミスショットをすれば歓声が飛んだり、盛り上がったりします。そうすると、選手もその声やざわめきに小さな違和感を感じ、平常心を失うんだと思います。五輪で彼女に期待したのは、165センチの体格を活かしたパワー系のショット。彼女の武器だと思うからです。ついに立った憧れの五輪の舞台ですが、チームの結果は残念ながら2勝7敗で8位でした。
── 試合後に、優奈さんとは会えたり、話すことはできたのですか?
靖広さん:試合後に、本人と話したら悔しがっていましたね。その時点で「次の五輪を目指したい」と、ハッキリ言うくらい逞しさも感じられました。
でも、親としてはこれ以上特別なことは望みません。本人がやりたいことを応援するだけです。「おつかれさま」と、現地では声をかけました。たまたま私がカーリング教室に行って彼女の夢中がハマって、いつの間にか五輪の舞台につながっていた。これからも、ふだん通りの彼女を見守っていければと思っています。2年前だったかな、じつは青森県で開催された誰でも参加できるオープン大会に、私と妻と子どもたち2人でチームを組んで参加できたのは、大きな思い出です。
── ご自身がかつて広報紙を見てカーリングにひかれたように、今度は優奈さんの姿を見て競技に興味を持つ方が増えると思います。競技運営に携わる立場から、改めて感じるカーリングの魅力や、今後の課題についてもお聞かせください。
靖広さん:神奈川県カーリング協会の専務理事をしているので、競技人口が増えればいいなとは思います。ただ、雪国ではないぶん、五輪があると競技人口は一時的に増えるんですが、なかなか続かない。社会人になれば、練習環境も含めて、なおさら続けにくい。
でも、カーリングは冬季五輪では数少ない「人の判定が介在しない」競技です。自分たちのプレーが結果に直結するし、一人ひとりの役割もストーンを投げたり、履いたり、指示を出したりと、一投ごとに違った競技の魅力がある。優奈のような存在が雪国育ちでなくても、冬季五輪を目指せる道標になってくれたらと思います。
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「何かをさせてあげなきゃ」「もっと手をかけてあげなきゃ」。そんな焦りの中で、私たちはつい、わが子の足元にある小さな芽を、親の期待という重荷で気づかないうちに踏みつけてしまっていることはないでしょうか。
小谷家の「ヒマなら行く?」という軽やかさと、自分のことは自分でする。それは、家族の一員として役割を果たし家族を作っていくという最高に贅沢な「自立のギフト」でした。完璧な親にならなくていい。ただ、同じ景色を面白がり、あとは信じて待つ。その静かな勇気が、いつか想像もしなかった場所へ、わが子を連れて行ってくれる。そんな未来を、信じてみたくなります。
取材・文:西村智宏 写真:小谷靖広