読み聞かせは「余計な演技しないで」とダメ出しの嵐

── 娘さんは春から大学生で、お弁当作りはいったん卒業ということですが、娘さんの子育てを振り返ってみていかがですか。

 

田中さん:小さい頃の読み聞かせは思い出深いですね。1日に何冊も読んでいました。ここは俳優としての本領発揮ということで、絵本のなかにおじいちゃんやおばあちゃんが出てきたら声色を変えて読んで。でも娘は「やめてくれる?もっと普通に。余計なことしないで」って言うんですよ。僕が絵本で芝居をするのが嫌なんですって。

 

『はらぺこあおむし』のキャラ弁
娘さんが小さい頃によく読んだという『はらぺこあおむし』のキャラ弁

でも、絵本の途中で、効果音や擬音語とかを入れるとすごく喜びました。おそらく娘には1000冊以上読んできたと思います。娘がすごいのは全部ストーリーを覚えていること。「記憶力うらやましい!」と思っていました。

 

そのおかげなのかわかりませんが、僕が家で台本を読んでいると娘が相手をしてくれるんです。思春期で普段はなんとなく冷たい感じなんですけど、台本を読むのは付き合ってくれて。もしかしたら芝居好きなのかな。奥さんは忙しくてすぐいなくなっちゃうんですけど、よくやってくれるなと思います。あとは子育てをきっかけに、礼儀作法についてもあらためて考え直しましたね。

 

── 芸能界で長く活躍されている田中さんがあらためて礼儀作法ですか!?

 

田中さん:挨拶はどの世界でも大切だと思いますが、子育てで経験する礼儀やマナーってちょっと違うんですよ。たとえば静かな場所で待っている間に、素敵なBGMがかかっていたりすると、体でリズムをとっちゃうことが多くて。僕からしたら「いい音楽が流れてるんだから、このくらいいいじゃん」って思うんですけど、面接の前や式典など、娘の大事な場面でリズムに乗るのは、奥さんに言わせるとダメなんですって。

 

今も娘から食事のときに「音を立てて食べない」とか、肘をついていたら注意されます。私は野山を駆け回って育ったタイプだったので、そういうものをまったく知らずに育ったんだなと。言葉遣いもそうですが、今の子は礼儀正しいですね。

 

この年になって周りから笑われることも多いのですが、いつか娘に追いつかなくてはと必死です。子育てを通じて僕自身も成長させてもらっていることが多いですね。

 

 

「いつか娘に追いつきたい」。 75歳の名優が、食事のマナーを娘に叱られ、パパ友に誘導されながら、照れくさそうに笑っています。

 

思春期の子どもの「ツン」とした態度に心が折れそうな日も、あなたの背中を誰かが「おけんたん」のように愛着を持って見ているかもしれません。完璧な親じゃなくていい。少し頼りなくて、でも一生懸命なあなたの姿こそが、いつか子どもが振り返ったときの、一番温かい記憶になるはずです。

 

取材・文:内橋明日香 写真:田中健