娘に贈る10冊のノートと最後に成功した卵焼き
── 継続するモチベーションを保つ工夫も大切なんですね。
田中さん:試食を兼ねて、朝ごはんにお弁当の残りのおかずをいただくのですが、毎朝作ったメニューを記録していたノートも10冊になりました。「結婚するときに全部あげるよ」と娘には言っていますが、喜んでくれるかな(笑)。
大変でしたけど、振り返ってみるとお弁当作りを通して家族の会話も増えて、いい思い出になりましたね。写真を撮るくらいならハードルは高くないので、お弁当を作る方はぜひ何か記録に残していただきたいです。やる気にもつながるのでおすすめです。
── 7年間のお弁当作りで、一番思い出に残ったメニューはなんですか?
田中さん:卵焼きです。これまで650回以上お弁当を作ってきて、かなりの頻度で卵焼きは作ったのですが、なぜかうまくいかない。焦げてしまって綺麗な黄色にならないんです。火加減が強いのかな。納得いく卵焼きができたのは最後の1回だけ。最後の最後に神様が今までの頑張りを褒めて助けてくれたのかなと思いました。
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「やった!終わった」。その言葉の裏には、逃げ出したくなる朝を650回も乗り越えた人だけが言える、本物の自負が詰まっています。
思春期の娘さんの「残してないんだから、おいしいってことでしょ」という言葉なき愛。それに救われ、ノート10冊分の記憶を積み上げた田中さん。今、あなたが台所でため息をつきながら詰めているそのおかずも、いつか誰かの身体になり、あなたの誇りになります。
「もうやり切った」と笑えるその日まで。明日のお弁当、せめて卵焼きだけは、神様が味方してくれますように。
取材・文:内橋明日香 写真:田中健