「住めば都」だけど、大切なのは場所じゃない
── 年月を経て、家族の形は変わっても、こうして一緒に時間を過ごす関係が続いているんですね。東京が恋しくなったりはしませんか。
井手さん:戻ってきて最初のころは「こぢんまりしているな」と、感じたこともありました。ただ、本当に「住めば都」。観光できる阿蘇も天草も車で1時間以内に行けて、水は美味しく、家賃は東京の3分の1ほど。今住んでいるのはオートロックの2LDKで都心では考えられない住環境ですよ。熊本のよさを、最近はインスタでも積極的に発信しているんです。九州の温泉もちょこちょこ行くので、「温泉ソムリエにでもなろうかな」なんて考えたりしています。
── 50代からの再出発は、かつての居場所を「取り戻す」ことではなく、今の自分にちょうどいい関係を「見つけ直す」作業だったのかもしれませんね。
井手さん:結局いちばん大きいのは場所より人なのかもしれません。両親とは近くに住んでいてもベッタリじゃないし、店では新しい友だちができて、今の自分に合う距離感の人間関係ができてきた。そういうつながりができてくると、不思議と孤独への不安も前ほど怖くなくなりました。
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若かったころのような「ベッタリとした関係」ではなく、中年を過ぎてからの人生を軽やかにする、つかず離れずの距離感。一度は離れた関係も、形を変えればまた新しく結び直せるのかもしれません。あなたにとって、これからの人生を共にする「心地よい距離」とは、どんな形ですか?
取材・文:西尾英子 写真:井手らっきょ