「お前が熊本行くなら、俺ら全員で盛り上げに行く」。師匠のその言葉を胸に、58歳で故郷へ拠点を移した井手らっきょさん。凱旋移住とはいえ、待っていたのは気心の知れた戦友がそばにいない心細さでした。一人で看板を背負う再出発の門出。そんななか、台風を突いて現れた師匠・ビートたけしさんが見せた「ある振る舞い」に、井手さんは言葉を失います。
「飲めないからこそ」シラフの裸芸で貫く、プロの誠実さ
── 2018年に熊本に拠点を移し、タレント活動をしながらスナック経営もされています。週末は予約なしでは入れないほどの盛況で、最後には十八番の裸芸まで飛び出し、店内も大盛り上がりだとか。スナックのマスターぶりが板についている印象ですが、実は「下戸」だというのは本当ですか?
井手さん:本当です。一杯で具合が悪くなるほどアルコールは苦手で、テンションはガタ落ちに。だから、昔から僕が裸になるのはお酒の勢いじゃなく、常にシラフなんです(笑)。お客さんから「マスターも一杯どうぞ」と勧められても、ノンアルコールで乾杯します。
── むしろ飲むと裸芸ができなくなる、と。すみません、認識が逆でした(笑)。ただ、 スナックの切り盛りは芸人の仕事と勝手が違うのでは?
井手さん:実は移住前も関東でダーツバーを経営していたので、経営にはそこまで抵抗はなくて。姉やスタッフのサポートもありますが、仕入れから売上の管理、業者さんとのやり取りまですべて自分でやり、「自分が店に出られない日は店を開けない」のが信条です。うちは県外からお見えになる方も多い。「らっきょに会いに来たよ」というお客さんをがっかりさせることだけは、絶対にイヤなんです。
── 井手さんに会った高揚感に加えお酒が入ることで、酔ってハメを外すお客さんもいるのでは?
井手さん:安心して楽しんでもらえる場所でありたいので、あまり度が過ぎる振る舞いをする方には「お引き取りください」とはっきり伝えます。僕らはたけしさんの「背中」をずっと見てきましたから。直接指導されたわけじゃないんですけど、「人に迷惑をかけない」という教えは、理屈じゃなく、身についているんだと思います。
熊本移住と、たけしさんへの「筋の通し方」
── そもそも熊本へ拠点を移したのは、どんなきっかけだったのでしょう。
井手さん:2016年の熊本地震のあと、翌年から地元のローカル番組に呼ばれる機会が増えたのがきっかけです。故郷が大変な時期でしたから、自分も地元復興のために少しでも力になれたらという思いが強くなっていきました。そこで、ディレクターに熊本移住の相談をしたら「それならレギュラー番組をやりましょう」と言われて。すぐにたけしさんの元へ行き、「熊本に帰ろうと思います」と報告したんです。
たけしさんには「それはちょっと寂しいな…」と言われました。僕らは若いころから軍団でずっと一緒に過ごしてきましたし、長い付き合いですからね。たけしさんが事務所を離れてからも、気にかけてもらっていました。でも、故郷でのレギュラー番組が決まったことを伝えると、「せっかくもらった仕事なんだから頑張れよ」と、快く送り出してくれたんです。「お前が熊本行ったら、俺ら全員で熊本の番組盛り上げに行くからよ。ギャラなんか要らねぇから」とまで言ってくれて。
