「日本だったら」を捨てたとき、景色が変わった

前田早穂
レシピ本を出すほど料理が得意な早穂さん、渡米後もサポートが続く

── そこから、どのように気持ちを切り替えていったのでしょうか。

 

早穂さん:ある日、ふと気づいたんです。私は「どんな環境でも、この人を支えていく」と決めてここに来たはず。なのに、日本との生活と比較して嘆いている場合ではないなと。

 

それからは、「郷に入れば郷に従え」という言葉を胸に、アメリカの慣習を受け入れるよう努めました。自分の信念は大切にしつつ、無理なことは潔く諦めることも学びました。そうすることで、少しずつ心が軽くなり、前向きに日々を過ごせるようになっていったんです。

 

さらに、現地で気の許せる友人にも恵まれ、一緒に楽しい時間を過ごす中で、その土地や人のことがどんどん好きになっていきました。困ったり悩んだりしたときも、友人たちが支えてくれたからこそ、異国の地での生活を乗り越えることができたと思っています。

 

振り返ると、学生の頃から、人とのご縁には本当に恵まれていて、名古屋でも広島でもアメリカでも「一生涯お付き合いしたい」と思える友人たちと出会うことができました。そうした奇跡のようなご縁を、これからもずっと大切にしていきたいと思っています。

 

アメリカでの生活は、初めてのことばかりで戸惑いもありましたが、自分の視野を大きく広げると共に、新たな価値観にも出会わせてくれた、かけがえのない経験だったと感じています。

 

 

華やかなメジャー移住の裏側にあったのは、言葉も通じない異国で、幼い子を抱えながら想定外の出来事に対応し続けた日々でした。思い通りにいかない環境を「不運」と嘆くのではなく、自分なりに工夫して「経験」に変えていく。早穂さんが手に入れたのは、どんな場所でも「自分らしく居場所を作っていける」というしなやかな自信だったのかもしれません。

 

理想と現実のギャップに、つい下を向いてしまいそうなとき。早穂さんのように「今の自分」を一度まるごと受け入れてみることで、明日を生きる心がほんの少し、軽くなるかもしれません。

 

取材・文:松永怜 写真:前田早穂 撮影:矢島太輔