「2400万円で競艇場を巡る」夫の夢を推す理由
── 熟年夫婦として、これからどのように過ごしていきたいですか?
池田さん:同居していた母の希望もあり、「近くにお墓が欲しい」と都霊園の募集に応募しました。でも、これがなかなか当たらないんですよね(笑)。懲りずに応募を続けて12年目で当選しました。夫の希望だった「五輪塔」のお墓が、もうあります。
── 終活に力を入れているんですね。
池田さん:とはいえ、まだそこまで完璧にやっているわけではありません。夫はお金の計算など経済的なことが不得意なものですから、そうした面は娘たちのために少し整えているくらいですね。
でも私は終活の前に、自分たちができるときに好きなことをやっておいたほうがいいと思っているんですよ。夫はギャンブルが好きで、「『全国に24ある競艇場すべてを、100万円ずつ持って回る』のが、俺の唯一の希望なんだ!」と言うんです。ちょうど昨日もそんな話をするものですから、「行ったほうがいいよ!」って話したんです。
── ギャンブルに2400万円を使うのにゴーサインを出されたんですか?
池田さん:もう75歳ですし、いつまで元気にいられるかわからないじゃないですか。夫は「休みは取れないし…」といざとなると腰が重いのですが、私は「一気に回らなくても1箇所ずつ予定を入れたらいいじゃない!」「行けるよ!」とプッシュし続けています(笑)。
── 池田さんとしては、たとえそれがギャンブルだったとしても、身体が元気なうちに、やりたいことをやろうっていうスタンスなんですね。
池田さん:そうなんです。終活もそうですけど、やっぱりいつどうなるかわからない歳ですし、楽しいことは楽しいうちにやったほうがいいと思って。
── 熟年夫婦としての理想像はありますか?
池田さん:相手との生活を幸せに感じることもあれば、ムッとすることもいろいろあります。そのときにあまり我慢せず、でも相手にぶつけるよりも一拍置いて自分がどう感じているか、自分の感情をしっかりと受け入れてみながら、やっていきたいですね。
夫の女癖に悩まされたこともありましたが、浮気されたことを根に持って責め続けたり、折に触れ「あなたは間違っている!」「私は絶対に正しい!」と夫婦間で白黒つけたりするのではなく、「グレーでも、まあいいか!」とそんな気持ちでいたいです。落ち着いて考えれば、悪い面ばかりではなく、良い面もあると気づくこともありますから。
…
「競艇場を回るのが夢」と語る夫に、「行ったほうがいいよ!」と背中を押す。それは、波乱の歳月を共に生き抜き、相手の「業」さえも自分の人生の一部として取り込んできた、池田さんなりの覚悟の形です。
相手の非を正し、白黒つけることだけが解決ではない。あえて「グレーのまま」で自分の平穏を保ち、今日を慈しむ。そのしなやかな境界線が、人生の後半をどれほど自由にするかを、彼女の姿が教えてくれています。
取材・文:石野志帆 写真:池田明子