「奈美佳に似ているね」母の言葉を、生きる武器に変えた

── クラスで孤立し、心ない視線にさらされながらも、学校に通い続けられたのはなぜですか。
吉野さん:失明したころ、母と観ていた「ミス・ユニバース」のドキュメンタリー番組がきっかけでした。画面の中にいたアジアンビューティな女性を見て、母が「奈美佳に似ているね。きっと奈美佳もいつか世界で活躍できるよ」と言ってくれたんです。
その言葉が、当時の私の心に深く刺さりました。学校でいじめられても、世界へ行く夢があるなら、こんな場所で殻に閉じこもっている場合じゃない。母の言葉を武器にして、独学でウォーキングを練習し、オーディションを受け続けました。「いつか自分もモデルになって、同じ境遇の人の背中を押したい」。その思いが、折れそうな心の原動力でした。
あえて“視線の戦場”へ行くことで自分を救う
── 高校での恩師との出会いも、世界へ羽ばたく背中を押したそうですね。
吉野さん:パリコレやフランスが好きだったので高校では世界史を選択したのですが、このときの先生が世界に関する知識をたくさん与えてくれました。授業が楽しくて、長期休みにも学校に通ったほどです。先生のおかげで、飛び出したいと思っていた世界が身近なものになりました。
── かつて視線に傷つき、いじめられた吉野さんが、今や“視線を浴びる”ことで輝いています。
吉野さん:モデルは、自分の身体をさらけ出し、視線を支配する仕事です。「いつか右目の光も…」という不安があるからこそ、見えている今のうちに、誰よりも強く輝いていたい。
片目失明というハンディを抱えて、あえてこの“戦場”に立つことが、私にとっては過去の孤独を肯定するための挑戦でした。不自由さを抱えたまま、どこまで行けるか。これからもこの目で、世界を切り拓いていきたいです。
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目に見えない「不自由さ」を抱えながら、懸命に「普通」を演じて生きている人は、案外、私たちのすぐ隣にいるのかもしれません。もしあなたの周りに、少し不器用だったり、反応が遅かったりする人がいたら。その背後にあるかもしれない「見えない戦い」を、あなたは想像したことがありますか?
取材・文:酒井明子 写真:吉野奈美佳