現在、年間約600〜700人の子どもが特別養子縁組で新しい家族と歩み始めています。しかし、世間の理解はいまだ乏しく、育ての親が葛藤に直面することも少なくありません。養子として育った志村歩さんは、実名で自身の半生を語るなかで、そんな親たちへ「帰る家がある環境が私には幸せだった」と伝えています。
養子の「育ての親たち」にも葛藤がある
── 特別養子縁組制度を利用し、養子になった当事者として講演活動を続ける志村歩さん。最近まで特別養子縁組における養子の当事者が顔出しして、発信するケースは少なかったように思います。自身の経験を伝え始めたきっかけは?
志村さん:養親(特別養子縁組制度の育ての親)コミュニティで、私が養子当事者としての話をしたら、すごく喜ばれたのがきっかけです。養親のなかには、「自分たちはこれでいいのだろうか」と、自信を持てない人がけっこういるのですが、私が幸せを感じながら育った話を聞いて「自分たちの子育てはこれでよかったんだ」と、自分たちを肯定できたそうです。
とくに(養子の)子どもが小さいご家庭や、思春期の難しい時期にさしかかったご家庭からは、大人になった養子当事者の体験談や思いを聞く機会は貴重、とポジティブな反応が返ってきました。このとき、自分の経験が人の役に立つことを実感したんです。そこで、休日に児童相談所、乳児院、里親支援センター、子ども家庭庁などに足を運び、施設内の関係者向け研修会などで講演をさせてほしいと話を持ち込み、活動を始めました。
実名で顔を出して話をする養子当事者は、これまでにひとりだけしかいなかったと思います。僕としては養子であることは恥ずかしいことでも、悪いことでもありません。顔を出して発信してよい、と他の当事者にも知ってもらえればと思います。
── 当事者の経験談は貴重です。2024年には養子仲間と本音トークを繰り広げるYouTube番組「Origin44チャンネル」を開設し、活動仲間の育ての親や支援団体の職員をゲストに招き、多様な立場から養子縁組を語り合っています。
志村さん:講演活動を始めたのをきっかけに、特別養子当事者の仲間とつながりました。私の現在の活動は主に3つで、先ほどお話した個人での講演、大人になった特別養子当事者が「特別養子縁組が特別ではない未来」の実現を目指して立ち上げた団体「ツバメ」の活動、そしてYouTube番組の発信です。仲間と協力してYouTube「Origin44チャンネル」にアップした動画は100本を超え、チャンネル登録者も1000人近くに達しています。

── 志村さんご自身も、養子当事者や養親からの相談にのることがあるのですか?
志村さん:XのDMに相談が寄せられ、テキストベースやオンライン面談で相談にのることはあります。特別養子縁組は、6か月の試験養育期間後、家庭裁判所の審判を受けて成立するのですが、その裁判中の生みの母親の方から連絡をいただいたこともあります。「本当にこれでよいのか」「名前は私がつけてあげたほうがよいのか」など、悩みは多種多様です。
もちろん、相談してくれる生みの親、育ての親になろうとしている方々の役に立てたら嬉しいのですが、私の立場からすると、いちばん大切にしたいのは「当事者(子ども)の幸せ」なんです。ですから、その子どもの将来を考え、私なりの言葉を伝えています。