つらい経験が今に活きている「貧乏は財産」

── カミングアウトして、素のご自身で仕事ができることで、本来の力を発揮しやすくなり、いろいろと好転したこともありそうですね。
緑川さん:貧しくてつらい経験をしてきたことで、人の痛みにも気づけますし、いろいろな気持ちを経験できたおかげで感情の引き出しも多いと思うので、お芝居などにも活かせているところはあります。やはり経験に勝るものはないというか、レッスンなどではなかなか身につかない感性のようなものが備わっている気がします。
たとえば、つらいときにつらいと思わない工夫をするのもそのひとつです。貧乏って普通にみんなができることができないので選択肢が狭いことばかりなんです。たとえば、服は兄のおさがりだったので青とか緑しかなく、だったら「好きなピンクが着れない」ではなくて、「青が好きって思えばいいじゃん」と。「青のいいところってなんだろう?青空がきれいだし…」と。悪く言うと現実を避けているんですけど、ネガティブにならずポジティブに考える力はつきましたね。
今は大好きなピンクの持ち物ばかりです。そういう意味では、あのころ自分をだましていたぶん、今は「本当にピンクが好き」と心の底から思えたり、「ピンクが着られる幸せ」も感じられる。みなさんからしたら「当たり前」かもしれないちょっとしたことで幸せを感じられるのは得しているかもしれませんね。
── そのように状況をポジティブにとらえる力は、人間力として豊な人生の糧になりそうですね。たしかに緑川さんにおいては、俳優のお仕事に活きてきそうです。
緑川さん:幼いころは貧しくて、気を紛らわせるべくずっと公園で過ごしていたので、人間観察が趣味になって。公園の人間模様を見ながら、自分の頭の中でドラマを作って「主演・自分。主題歌はこんな曲で、12話構成でこういう展開」などと、脚本まで想像して、それをひとり芝居したりしていました。お金がないのでそういう想像で楽しむしかないんですよ。でも、その世界にどっぷり入ることができたことが、ある意味、今の俳優の仕事に繋がっていますね。
むしろ普通の生活だったら今の自分じゃないかもしれないと思ったら、怖いくらい。本当に貧乏だったことはよかったなって思えるので、その経験があって、今の自分があると。私にとって「貧乏は財産だな」と思えるようになりました。
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自分の弱さや、知られたくない過去を「さらけ出す」ことには、大きな勇気がいります。けれど、それを手放した瞬間に初めて見えてくる「本当の自分」があるのかもしれません。みなさんは、コンプレックスだと思っていたことが、後になって「自分の強み(財産)」に変わった経験はありますか。
取材・文:加藤文惠 写真:緑川静香