「埋蔵金を掘り当てて」「青酸カリを他人の胃袋に瞬間移動させて」。日本中が「ハンドパワー」に熱狂した当時、エンタメとしての演出が一部の人に「本物」と信じ込まれ、Mr.マリックさんのもとには欲や妄想が混じった依頼が殺到したそうです。恐怖やとまどいのなかでMr.マリックさんが辿り着いたのは、「栗間太澄」というコミカルなキャラへの転身でした。虚像を脱ぎ捨て、マジシャンとして活躍を第一線で生き残り続けた、逆転のサバイバル術に迫ります。
「埋蔵金を掘り当てて」トンデモな依頼が
── 1980年代後半、「ハンドパワー」や「超魔術」というフレーズで一世を風靡したMr.マリックさん。当時、その不可思議なパフォーマンスに日本中が熱狂しました。いっぽうで、ブームの裏側では深刻な問題も起きていたそうですね。どんな弊害があったのでしょう。
Mr.マリックさん:エンターテイメントとして楽しんでくださる方が大半でしたが、なかには私を本物の「超能力者」と思い込んでしまう方がいました。帰宅すると見知らぬ女性が勝手に家に入り込んでいて、妻から「あなたが呼んだって言ってるけど」と、言われて。その方は地方から上京してきて「宇宙からマリックさんと結婚しろとお告げがあった」と、本気で信じていたんです。こうしたケースが何度もありました。当時は番組の演出もあり、こちらの見せ方が誤解を生んでしまった面もあったと思います。
── その状況が続くと、日常生活にも影響が出ますよね。
Mr.マリックさん:当時は電話帳に自宅の電話番号が掲載されていた時代ですから、本名を調べれば自宅まで来られるんです。毎回、近所の警察署まで一緒に行って事情を説明することを繰り返していました。
他にも「マリックさんの子どもを妊娠しました」と、突然、訪ねて来る方もいて。もちろん一度も会ったことない人ですよ。なのに「上野の喫茶店で会いましたよね」と思い込んでいる。会っていないことを証明するって、本当に難しいんです。周りからは「遊んでるんだろ」なんて疑われ、妻にも誤解されて大変でした。
とんでもない依頼もたくさんありました。「宝くじ当ててくれ」はかわいいほうで、「うちのお寺を差し上げます。座布団に座っていてくれるだけで1億円お支払いします」という申し出や、地図を持ってきて「この3か所のどこかに徳川埋蔵金の金山があるので、掘り当ててください。先生なら当てられます!」と、ダウジング(振り子のような道具を使って、潜在意識の力で目に見えないものを探知する方法)の棒まで持参される方もいましたね。

── 徳川埋蔵金をダウジングで。そんなドラマみたいなことがあるんですね。
Mr.マリックさん:極めつけは、風呂敷包みを渡されて「これは何ですか?」と聞いたら、「この中にある粉を、ある人の胃袋にテレポーテーションさせてほしい」と言うんです。中身を確認すると「青酸カリです」と…。
── 恐ろしすぎます。「超魔術ならアリバイが残らない」とでも思ったんでしょうか。
Mr.マリックさん:もうビックリですよ。会いたくなくても、そういう人たちは本当に図々しくて、勝手に楽屋に入ってきたり、自宅を調べて押しかけてきたり。止めようがないんです。