孫は「コンタクトレンズ」のような存在
── お孫さんの言葉がきっかけとなった免許返納ですが、マリックさんの生活や考え方にも変化があったと伺いました。どんなところにお孫さんの存在による影響を感じていますか。
Mr.マリックさん:私にとって孫は、人生の「道しるべ」のような存在なんです。運転に限らず、あらゆることを教えてくれる存在ですね。年を重ねると、いろんな垢がついて目が曇ってくる部分がありますが、幼い子どもはまっさらで、私とはまったく違う視点を持っているんです。よく「孫は目に入れても痛くない」と言いますが、私にとって孫は「コンタクトレンズ」のようなものなんです。
── 孫は「コンタクトレンズ」ですか。どういうことでしょう。
Mr.マリックさん:曇って見えなかったものが、孫というレンズを通すと急にハッキリ見えるようになるんです。正しいことと間違っていることを、もう一度、見直させてくれる。これまでさんざん飲み歩いていたのが嘘みたいに遊ばなくなり、「こんなことしてちゃいけないな」と思うようになりました。
これまでマジックの練習を始めたら、自室にこもって誰の侵入も許しませんでした。家族も仕事の邪魔をしてはいけないと気をつかって、絶対に近寄らなかったんです。でも、孫だけは違います。こっちの都合なんてお構いなしで「じいじ、遊ぼう!」と入ってくる。最初は、練習しながら片手間で相手をしていたんですが、そうすると孫はすっといなくなる。子どもは正直ですからね。遊ぶなら徹底的に遊ばないといけないんだなと知って、練習の手を止めて、ちゃんと孫と遊ぶようになりました。だから、マジック練習の手を初めて止めたのが孫なんです。
── マジックひとすじだった人生に、初めてブレーキをかけた相手がお孫さんだったんですね。
Mr.マリックさん:孫のおかげで「世間にもデビュー」したんです。顔が知られているからと避けてきた百貨店にも初めて行きました。私が周りの目を気にしているのをおもしろがって、孫が急に人込みでパッと立ち上がって「Mr.マリック!」って大声で叫ぶんですよ。周りのお客さんが一斉にこちらを見るし、もうビックリ。「なんでそんなこと言うんだい?」と聞くと、平然として笑ってる。でも、不思議と腹が立たない。私からしたら、自分の常識にない「異星人」が突然、現れたような感覚です。
孫にいろんなところに連れ出され、知らなかった世界をたくさん知りました。マジック一辺倒で、世間のことをほとんど知らなかった私がようやくまともになれた。孫の言葉は、不思議と素直に聞けるんですよ。

── ご自身のお子さんからの言葉とは、また違うものですか。
Mr.マリックさん:まったく違いますね。自分の子どもとなるとどうしても「親として教育しなくては」と、どこか上から目線になってしまう。だから子どもの言うことを「正しい」とはなかなか思えない。でも、祖父母と孫の関係はフラット。お互いに素直でいられる、人間関係のなかでいちばんいい形なんじゃないかな。
── 免許返納についても、親がなかなか説得に応じず悩んでいる家庭は多いです。マリックさんのように、「孫の力を借りる」という手もありですね。
Mr.マリックさん:自分の子どもから言われても、親は意固地になるだけですから難しいですね。孫がいる人は孫にお願いしてもらうのがいちばんいいんじゃないかな。孫に「心配だから免許返してほしい」と言われたら、ふと我に返って客観的になるというか、きっと聞く耳を持てると思うんです。
取材・文:西尾英子 写真:Mr.マリック