演歌一家としても知られる歌手の鳥羽一郎さんには保護司歴27年という知られざる一面があります。過ちを犯し、道を外れた人の更生を支援するのが保護司の役割。その活動には、演歌の歌詞のようなドラマが潜んでいました。

18歳の暴走族少年を更生させた誘い文句

── 1998年から保護司の活動をしている鳥羽一郎さん。歌手として忙しい日々を送るかたわら、刑務所への慰問活動を保護司の仕事の一環として取り組まれていますが、慰問活動とは別で、実際に少年を更生させた経験があるそうですね。

 

鳥羽さん:お世話になっている九州の業界関係者からの相談でした。「息子が暴走族で何度も警察に補導され、手を焼いている。何か意見してやってください」と、頼まれたのが始まりです。九州でコンサートを行った際、その少年を楽屋に連れてきてもらい、話をしました。

 

年齢は18歳。親にあまり迷惑かけちゃダメだと諭してから、「俺が18歳のときはマグロ船に乗り、一人前に働いていたぞ」と話し、「どうだ、マグロ船に乗る勇気はあるか?」って聞きました。懇意にしている鹿児島の水産会社があってね。マグロ船を何隻も運航しているから、「やる気があるなら紹介するぞ」と伝えたわけです。

 

そうしたら、その場では「とんでもない。勘弁してください」という反応で。でも、後日、父親から連絡がきて、「(マグロ船に本人が)乗りたいと言っている」と。それで、水産会社の社長に少年の引き受けを依頼したんです。

 

2025年末に更新された保護司の任命状

── 鳥羽さんは17歳から約5年間、マグロ船やカツオ船の漁労員として働かれています。マグロ船とは、どのようなものなのでしょうか?

 

鳥羽さん:その名のとおり、マグロを捕獲するための船で、漁労員は非常に過酷な環境を余儀なくされます。鹿児島にある水産会社のマグロ船が狙うのは、インド洋のミナミマグロでね。一度の航海が約2年。日本を出てインド洋で捕獲し、基地のある南アフリカのケープタウンの港を目指すというコースです。船に一度乗ったらそれだけの期間、降りられないわけです。

 

しかも、インド洋の漁場は波が非常に荒く、一年中、シケっているようなところです。だからこそ、「南半球の赤ダイヤ」と称されるマグロが獲れるんだけど、漁労員にとっては半端なくキツイんですよ。私もミナミマグロを狙うマグロ船に一時期乗っていましたが、インド洋の漁場があまりにも波が激しく、逃げ帰ってきたのを記憶しています。

 

先の水産会社の社長に少年の引き受けを頼んだときも、「いきなりマグロ船に乗るのはムリだ」と言われました。同社の作業施設で少し修業してからのほうがいいだろうという話になったんです。