「今の自分は魅力的」だと思えるように

──「しゃべりすぎてしまう」というADHDの特性については、芸人としては利点だととらえることもできそうですが…。

 

中山さん:僕もそう感じています。以前、病院の先生から、「ADHDの特性を抑える薬を出すこともできますよ」と言われたことがあったのですが、結局は断ってしまいました。なぜなら、「特性を抑えるいっぽうで、今のよさがなくなるかもしれない」と言われたからです。

 

芸人は話すことが仕事なので、今のようなテンポで話せなくなってしまった場合、芸人活動を続けていけなくなる可能性があります。たしかに、時間感覚のあいまいさなど、ADHDの特性からくる苦手さもありますが、「どんな状況でも話すことができる」ということは強みでもあると思うんです。実際に、後輩のライブに「飛び入りで出演してほしい」と言われたときも、すぐに対応することができました。

 

衝動的にしゃべってしまうことがデメリットになる状況についても、場数を踏みながらコントロールできるようになり、今では「聞くタイミング」と「話すタイミング」をうまく見極められるように。生まれ持った特性も、工夫次第で緩和や改善ができると、自分自身の経験から知ることができました。

 

── 自身の特性をいい方向へと転換させようとする考え方、素敵ですね。その前向きな力が、同じような特性に悩む人の励みにもなっていると思います。

 

中山さん:自分の特性と向き合うことは、自己理解につながりますし、さらには他者への理解へと広がっていくと感じています。実際にYouTubeなどで「自分もADHDです」とコメントを寄せてくれたり、相談されたりすることもあって。そういうときは、僕の経験を踏まえてアドバイスしながら、他者を理解するようにしています。

 

「R-1グランプリ」で優勝した後、仕事が減って借金を抱えて、さらにADHDだと診断されて…。僕のこれまでの人生、しんどいことも多くありましたが、その道のりがあったからこそ「今の中山功太は魅力的」って思うことができますし、「経験しているからこそ、伝えられることがある」と、実感しています。

 

今後も、自分自身を受け止めて、芸人としての活動に真剣に向き合っていけたらと思っています。


取材・文/佐藤有香 写真提供/中山功太