人口6300人の町でマタギは90人

── 男性ばかりのなかで、女性が1人いるのは体力的にも大変だと思います。

 

蛯原さん:山に入るときはやはり体力づくりをしてから入ります。でもいま振り返ってみれば、そばで見学していたころから、「これくらいまでは行けるかな、もう少し奥でも平気かな」という感じで、私の体力を推し量っていてくれたように思います。マタギは集団で狩りをするのですが、なかには経験豊富な高齢の人もいるし、まだ経験の浅い若者もいます。遠くから指示をする人、撃つ人というふうにそれぞれが役割分担をしています。体力的に差を感じる部分もありますが、私の能力に配慮して動きを決めてくれています。

 

クマと対峙するのは命がけでもあります。マタギたちは互いに命を預け合っている関係でもあるから、すごく仲がいいですね。飲み会をすると、その季節の山の様子やそのときに採れる山菜の話などで盛り上がります。誰もグチを言わないし、さっぱりとしてすごく居心地がいいんです。

 

クマ狩りはまだ雪が残る春先に行います。クマはこの時期に咲くブナの花芽が大好物。まだ木の葉が全部落ちているし、草も生えていないから、クマは身を隠す場所がありません。木に登るクマの姿を見つけやすいんです。冬の終わりごろから春先はクマの話でもちきりです。マタギって、狩猟だけをしているイメージかもしれませんが、季節によってはキノコや山菜を採ったり、釣りをしたりで、1年を通してなにかしらで山に関わっているんです。

 

── マタギは何人くらいいるのでしょうか?

 

蛯原さん:小国町全体で90人ほどいます。人口約6300人の町なので、比率は高いと思います。うちの班で最年長は83歳、ほとんどの人が70歳代。確実に高齢化しています。若い世代は私みたいに移住してきた人がほとんどです。

 

マタギの歴史は長く、平安時代にまでさかのぼると言われています。自然への畏敬の念を忘れず、決して乱獲はしません。山の恵みを必要な分だけをいただき、次の世代にも残してきました。私は2012年のとき、28歳で結婚しました。夫はマタギ仲間でもあります。マタギの教えを忘れず、豊かな自然を子どもたちへ、さらに次の世代へとずっとつないでいきたいですね。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/蛯原紘子