念願の復帰も、退団を決めたそのわけは

── 闘病を経て復帰されましたが、実は退団を決めたとうかがいました。
池田さん:「退団はもうそろそろだな」というのはずっと考えていたんですが、やはり病気になって価値観が変わったのが大きかったです。20代でオーディションに落ちまくっていた暗黒期を経てここまで来られたことを考えると、私のポジションは「栄光」そのものでした。
いっぽうで、それにしがみついている自分がいたと気づいたんです。シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーでなければ、私には価値がないんじゃないかと思っていたところがあったのですが、病気をきっかけに「それってどうでもいいことなのかもしれない」と思ったんです。
ちょうどそのころ、樹木希林さんがある児童文学者の言葉を引用して紹介されていた言葉を思い出しました。「時が来たら、誇りをもって脇にどけ」。いつまでも地位や名誉にしがみつくな、という意味なんですけど、それがすごく胸に響いて。「この大切な役を独り占めしてはならない。次の世代にもこの経験をしてほしい」と思いました。
── 池田さんの役を引き継ぐ後任はもう決まったんですか?
池田さん:候補にはいろんな国籍の方がいましたが、偶然、日本人のパフォーマーに決まりました。本当に努力家で、私と一緒に役づくりをしてくれるのがうれしくて仕方ありません。「この決断でよかった」と心から思えました。
── 今後は、どんなキャリアを思い描いていますか?
池田さん:まずは、これまで生活のリズムが合わない時期が多かった家族とゆっくり過ごす時間をつくりたいです。また、モンテッソーリ教育を学んでいるので、先生としても働きたいと思っています。
とはいえ、復帰して改めて確信したのは「パフォーマンスを超える情熱はない」ということでした。がんを経験して戻ったときに、「こんなに好きなことは、もう一生見つけられない」と思ったんです。今後は短期契約や常設ショーなど、チャンスを見つけてまたチャレンジしていきたいですね。
取材・文/石野志帆 写真提供/池田一葉