心ない言葉で、人との関わりを恐れてしまい

── 流産や死産などの悲しみは周囲に理解されにくく、気持ちを閉ざして外に出られなくなる方が多いと聞きます。菅さんもそんな経験をされたそうですね。

 

菅さん:2度目の流産のあと、自分の体調を整えようと思って友人の紹介でヨガ教室に行きました。予約の時に「流産を2回経験している」と伝え、インストラクターの方も流産経験があるとのことだったので安心して行ったのですが、当日案内されたのがマタニティヨガのクラスで、私以外全員が妊婦さんだったんです。

 

── そのクラスが妊婦さんのクラスだと、事前に聞かされていなかったのですか?

 

菅さん:何も聞かされていなかったので、私にとっては衝撃すぎて、身体が固まってしまって…。そのまま引き返す勇気もなくて30分ぐらい頑張って参加したのですが、「赤ちゃんの胎動を感じて」というインストラクターの言葉に耐えられず涙が出てきてしまい、途中で退出しました。追いかけてきたインストラクターの方に「あなた体が硬いから、これじゃ赤ちゃん産めないわよ」と言われて…。何も言えず、逃げるようにして泣きながらその場を立ち去りました。悔しかったです。同じ経験者から傷つけられるとは思ってもなかったので…。

 

それからというもの、家に閉じこもるようになり、新しく人と会ったり、知らないところに行くのが怖くなってしまったという経験がありました。

 

── 人とコミュニケーションを取ることに恐れを感じてしまうようになったんですね。

 

菅さん:追い打ちをかけるように、友人たちの出産ラッシュが続いたこともあり、友人から距離を置くようになりました。心から喜べない自分、お祝いの言葉さえも言えず、自己嫌悪に陥ることもありました。赤ちゃんを亡くした経験者は、よく「早く忘れて前を向きなよ」とか「いつまで泣いてるの?」といった言葉をかけられることが多いんです。また、上の子がいて下の子を亡くしてしまった人は「上の子がいるからまだよかったね」や流産・死産は「生まれてから亡くなるともっとつらいだろうから、まだよかったね」「まだ若いから」と、よかれと思ってかけた言葉に傷つくこともあり、人と関わることが怖くなるという人が少なくありません。

 

個人差があるので、同じ言葉でも受け取り方の違いもあり、周囲の人にとっても難しいとは思います。「どういう言葉かけがいいか」とよく聞かれるのですが、「何か良いことを言わなくては」とは思わずに、「寄り添いたいと思っている」「力になりたい」という気持ちを伝えるだけで、それが心の支えになっていくのではないでしょうか。

キャンドルとライトアップで伝える「こころの繋がり」

── 菅さんは2018年から当事者が参加できる「ANGEL’s HEART」という団体でご家族の居場所づくりをしているそうですが、そこに足を運ぶことができない人のために、さらに活動を広げられたそうですね。

 

菅さん:会に来られる方はごく一部です。会に来られない人にも何かできることはないのだろうかと悩んでいたときに、死産経験者で私と同じように神戸で自助グループ「エンジェライト」を主宰している代表の小原弘美さんと知り合いました。

 

小原さんも、同じように会に足を運べない方々に対して何かできないのだろうかと感じていたと話してくださいました。そして、イギリスにはピンク&ブルーリボンをシンボルとする「Baby Loss Awareness Week」というのがあると教えてくれたんです。Baby Loss Awareness Weekとは、赤ちゃんを亡くして深い悲しみのなかにいるご家族を支え、グリーフケアの重要性を社会に啓発する国際啓発週間なんですが、まったく知らなかったので衝撃を受けました。

 

── なぜですか?

 

菅さん:アメリカやイギリスで、すでに20年以上も前からやっている活動だったからです。アメリカにおいては、レーガン大統領の時代に10月を啓発月間と制定されたことから始まったと知りました。流産、死産、新生児死などで赤ちゃんを亡くすことは、日本では話題にするのもタブー視されているような状況があると感じていましたが、「声をあげてもいいんだ」と気づかされました。また、当たり前のことかもしれませんが「赤ちゃんを亡くした人が、同じように悲しみを抱えている人が世界中にいるんだ」と思ったら、すごく心が救われたんです。

 

── そこから「ピンク&ブルーリボン運動」を日本で広げていく団体を立ち上げられたんですね。

 

菅さん:最初に教えてくれた小原さんや会に来ていた流産・死産経験者のお母さんたちと一緒に「Baby Loss Family Support ‘Angie’(アンジー)」を立ち上げ、イギリスの団体に直接連絡を取り、日本でもこの運動を広めようと決めました。ピンク&ブルーリボンのピンバッジを製作するクラウドファンディングに挑戦し、誰も賛同してくれる人はいないのではないかという私たちの不安をよそに、4日で目標額を達成し、合計564名からの賛同を得ることができました。当事者をはじめ、支援が必要だと思っている人がたくさんいるということに、改めて驚いた瞬間でした。

 

── 毎年10月9日~15日が、「Baby Loss Awareness Week(ベイビー ロス アウェアネス ウィーク)」という国際啓発週間だそうですね。

 

菅さん:日本でも同じように「亡くなった赤ちゃんとご家族に想いを寄せる1週間」として、集中的にポスターを病院や自治体、教育機関等に掲示していただいたり、各地で赤ちゃんを思ってキャンドルを灯す「Wave of Light」を開催したり、この期間は特に、赤ちゃんと、赤ちゃんを亡くしたご家族を思える時間になってほしいと思っています。また、イベントに足を運べない方もいらっしゃるので、SNSを通して、少しでもこころの繋がりを感じてもらえたらと思います。

 

ここ数年で、自治体主催の啓発ライトアップも増えてきました。全国各地で同じ志を持つ自助グループや賛同者の方が働きかけ、その声が届いて各地の名所のライトアップが実現しています。昨年は東京都庁や熊本城をはじめ13か所、今年は神奈川県庁のライトアップも決まり、合計20か所以上がピンクとブルーに照らされます。

 

流産や死産などが軽視されないよう、どれだけ心身に影響があるのか正しい知識と理解が必要だと思っています。母親だけでなく、赤ちゃんの父親、きょうだい、祖父母などのグリーフサポートにも目を向けないといけません。

 

このピンク&ブルーリボン運動を通して、ひとりでも多くの赤ちゃんを亡くされたご家族の生きる力となり、社会全体で支え合えるよう、必要な人に必要な情報が届き、寄り添い手を差し伸べられる優しい社会になることを切に願っています。

 

取材・文/石野志帆 写真提供/菅 美紀