2022年5月、アメリカ滞在中に階段から落ちて骨盤を骨折した益若つばささん。帰国もままならず、異国の地で日常動作に介助が必要な日々が続いて── 。(全4回中の1回)
「トイレだけは先に練習させて…!」とお願いし

── 2022年5月、仕事でアメリカを訪れていたときに骨盤を骨折し、9か月間休業をすることになりました。まず、骨折したときの状況について教えていただけますか?
益若さん:ちょうどアメリカから帰国する日で、空港に行く時間が刻々と迫っていたんです。私は準備が終わってユースホテルの1階にいましたが、マネージャーがまだ降りて来なかったので、2階まで様子を見に行ったんです。その後、2階から階段を降りるときに足を滑らせてしまいました。ものすごい勢いで5段くらいすべり落ちて、そのまま動けなくなって。はじめは、私が落ちたままの格好で横たわっていたので、「大丈夫?」とみんな笑いながら様子を見にきましたが、私が全然、起き上がらないのを見て「これはタダごとではない」とすぐに察したようです。ちょうど知り合いのアメリカ人夫婦が近くに住んでいたので、連絡してもらうとすぐに駆けつけてくださって。「これは帰国どころじゃない」と、すぐに救急車を呼んでもらって、病院で仙骨骨折と診断されました。
── かなりの激痛だったのでしょうか?
益若さん:最初は痛くなかったんですけど、とてつもない痛みにだんだん襲われて。涙が止まらなくなり、病院に着きすぐにモルヒネを打たれました。日本だったら結構なことだと思うんですけど、アメリカは銃社会なので、銃にくらべたらそこまでおおごとじゃないと思われたのかもしれません。次から次へと重症な人たちが運ばれてきて病室が埋まっていたらしく、私は廊下で治療を受けました。海外の人から見たら、日本人は幼く見えるようで「あの子ども、かなり痛がってるけど大丈夫か?」みたいな感じで遠巻きに心配してくれたり、声をかけてくれていたのは、激痛ながら覚えています。
── だいぶ大変な状況かと思いますが、そのまま入院されたのでしょうか?
益若さん:アメリカではよほどのことじゃないと入院せずに帰されるようで、歩行器だけ渡されて「とりあえずこれで帰ってくれ」みたいな感じでした。医療費が高くて、救急車はロサンゼルス市内を数キロ乗るだけで50万円くらい請求されました。ただ、帰されても歩くことはおろか、座ることも起き上がることも自分ではできなくて。知り合いのアメリカ人夫婦が「空いている部屋があるからうちにいらっしゃい」と言ってくださったので、しばらくお世話になることに。後日、ホームセンターに車椅子を買いに行ってもらいました。家では座ると痛いので、1日中横になっているか、食事のときは立っているか。移動するときは歩行器か車椅子の生活になりました。
たまたまバリアフリーの家だったので、車椅子や歩行器は使いやすかったのですが、たとえばトイレに行くのもひと苦労。はじめは歩行器を使ってベッドからトイレまで向かうんですけど、一歩一歩、赤ちゃんがゆっくりハイハイしながら進む感じでとにかく遅い。しかも20、30歩進むと限界がくるので、そこから知人の夫婦に車椅子に乗せてもらうんです。便座にもソーッと座りますが、座った瞬間お尻に無数の針が刺さるような激痛。骨折の影響でお腹に力が入らないので、普段まったく便秘にならないんですけど、そのときは日本から便秘の薬を持ってきてもらいました。自分ひとりではトイレに行けないし、夜中に人を起こしてトイレに行くのもかなりのストレス。さらにトイレの個室で人のお世話になるのも恥ずかしすぎたので「トイレだけは先に練習させてほしい…!」と強くお願いしました。