夫そっくりな息子は救命救急の医師に「いつかふたりで」
── 現在、28歳になる息子さんは、医師として働いていらっしゃるそうですね。医師を志した背景には、お父さんの闘病を間近で見てきた影響もあったのでしょうか。
根津さん:息子に直接聞いたことはありませんが、影響はおおいにあるでしょう。物心ついたころから、ずっと病に悩まされてきた父の姿を間近に見てきたわけですから「病気で苦しむ人を救いたい」という気持ちは人一倍強いと思います。息子はいま、ER(救命救急)の医師として働いています。ひとり暮らしをしていますが、1、2週間に1度は帰ってくるので、よく一緒にご飯を食べたりしますね。
── 息子さんの名前(「甲斐太(かいと)」さん)は、夫の甚八さんがつけたそうですね。どんな思いがこめられているのでしょう?
根津さん:息子が生まれた当時、夫が『若葉のころ』(1996年、TBS系)というドラマでKinKi Kidsのおふたりと共演していたんです。そのなかで、堂本光一君が演じていた医者の息子役が「甲斐」という名前でした。夫の出身地は山梨県なのですが、山梨はかつて「甲斐国(かいのくに)」と呼ばれていたことから「甲斐」という名前にシンパシーを感じたようです。
ただ、字画を見てもらったところ「あと4画あるほうがいい」と言われ「太くてたくましい子になるように」という思いをこめて「太」の字をたし「甲斐太」にしました。息子が生まれた日に、夫が腹膜炎になって入院してしまったのですが、剛くんと光一くんがお見舞いに来てくれて、出産祝いと子ども服をプレゼントしてくれたのも、素敵な思い出です。
息子を見ていると「夫の性格とよく似ているなあ」と感じます。甚八さんは、寡黙で我慢強く、ケガや病気で大変なときも、愚痴や文句ひとつ言ったことがありませんでした。息子も夫のそういう性格を引き継いでいて、あまり口数の多いほうではなく、物静か。職人肌で集団行動が苦手なところもそっくりです。お互いに仕事が忙しく、ゆっくりと甚八さんのことを振り返って話す余裕はまだありませんが、いずれそうしたときも来るでしょう。そのときには、ふたりで甚八さんが出演した作品を観ながら、偉大な俳優であり、素敵な夫であり、優しい父であった彼を振り返りたい。いまはそう思っています。
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ふたりの出会いは、知り合いのホームパーティだったそうです。根津甚八さんの第一印象は「地味な人」。でも、話してみると意外にも共通点がたくさんあったとか。そして、初デートの誘いは「うちでパスタを食べないか?」から、3度目のデートで結婚を意識するようになります。
PROFILE 根津仁香さん
ねづ・じんか。ファッションジュエリープロデューサー。スキンケアアドバイザー。日本プロポーション協会理事日本ケアビューティー協会理事。武蔵野美術大学で空間演出デザインを学んだ後、海外アパレルブランドに就職。2010年、パーソナルセレクトブランド 「Jinka Nezu」を立ち上げ、ブランドプロデューサーとして活動を開始。著者に『根津甚八』(講談社)。
取材・文/西尾英子 写真提供/根津仁香