テレビでよくみかけるのは、帯番組の司会者や多数のCMに出演するスーパースターや人気俳優が相場と思っていたら、意外にも情報番組のロケで登場する、あの人もいました。スーパー「アキダイ」の創業者・秋葉弘道さんです。なぜ毎日のようにテレビに現れるのでしょうか?(全2回中の2回)
取材は断らない「お金は一銭ももらわない」
「野菜の高騰」など青果の市況を伝えるニュース番組を見ていると、スーパーの現場が映し出され、ちょっとダミ声な中年の男性が軽妙にコメントをする姿を見たことはないですか?その声の主が、スーパー「アキダイ」店主・秋葉弘道さん。なんと昨年の年間テレビ出演は350回以上だとか!

「最初からテレビ取材が多かったわけじゃないですよ。依頼を引き受け、聞かれるままに答えていたら、少しずつ増えていったんです。基本的に取材のオファーを断らず、生の情報をわかりやすく説明しています」
このように秋葉さんは語るものの、提供される情報は関係者であれば誰もが知り得るものではありません。秋葉さんだからこそ入手できるものです。
「僕の場合、青果市場にみずから仕入れに行き、店頭ではお客さんと対面でやり取りして販売しています。なので、野菜の値段が単に高いとか安いではなく、生産地の状況や消費者の気持ちに基づいたコメントができるんです。それぞれの現場の声を聞いて事情を熟知しているから、メディアの方から重宝されるのでしょう」
テレビ局への協力を惜しまず出演を重ねるなか、次第に「青果業界の今」を伝えることに、使命感を持つようになったといいます。

「野菜や果物は天候などによって生産量や品質が左右されますよね。不作を余儀なくされる年もあるわけです。いまでいえば、燃料費などの高騰で価格に転嫁せざるを得ないときもある。そういった生産者の心の叫びをみなさんに知ってもらい、傷はあっても味は問題ないと説いたり、価格より新鮮さをアピールしたりして、食べて応援しましょうと推進する役割を担っていると思っています。だから取材に対して金銭はいただかない。すべてノーギャラで受けているんですよ」
旅行に行ったら「一緒に写真を」と行列ができて…
ニュース番組のほか、バラエティ番組にも出演するなど、いまや全国区の有名人となった秋葉さん。
「たくさんの芸能人の方と絡む機会があるのはうれしいですよ。ふつうだったらあり得ないでしょう。八百屋のオヤジと接点なんてないわけですから。僕が店頭に立つ関町本店にも芸能人が撮影で多く訪れています。いまをときめくアイドルの目黒蓮くんが半日弟子入りに来たり、僕のモノマネをするお笑い芸人がやって来たりね」

とはいえ、いいことばかりではないそう。有名になっていくと、プライベートでも声をかけられるもの。そのつど、対応しなければいけないとか。
「子どもや孫と旅行に出かけたときのことです。観光スポットの前で家族写真を撮っていったら、『すみません、私たちもいいですか?』と声をかけられて。僕と一緒に撮影したいと言うわけです。応じていたら、いつのまにか行列に…。家族を待たせ、知らない人たちとの撮影会になってしまったんです(笑)」
仕事は「できる、できない」より大切なことがある
アキダイは現在、グループ年商40億円以上にまで成長。2023年3月にスーパーチェーン「ロピア」グループの傘下に入ってからも躍進は止まりません。トップに立つ秋葉さんが、仕事で大切にしているのは「向上心」だといいます。
「仕事というのは、いま、できるかできないかではなく、これからどうなっていきたいか、が重要だと思っています。仕事で苦手なことがあって、いまできなくて、向上心を持っていれば克服することができますよね。逆に、いまできるとしても、向上心を持っていなければ腕は磨かれないため、成長は遠のいてしまう。僕は人一倍向上心が強い。人前が超苦手なのを克服しようと高校1年のときに八百屋でバイトを始めたことや、開業してから数々のピンチも乗り越えられたのもそう。だから今日のアキダイがあるわけですよ」
優秀な人材が揃うアキダイ。人材育成においても、秋葉さんは一家言を秘めています。
「自分の物差しで相手を測らないことが大前提です。自分ができるから、部下もできて当然という考え方をしてはいけない。できない人を、どのようにしてできる人にするかが上に立つ人間の努めになります」

そこで大切なのが、本人の目標を明確にすること。会社で目指すステージや役割をはっきりさせる必要があるそうです。
「山登りでいえば、登頂を目指すのは高尾山なのか、富士山なのか、エベレストなのか。また、その際に望む役割はチームリーダーなのか、チームメンバーの一員なのか。たとえばエベレスト登頂を目指し、チームリーダーの役割を望む人に対しては、相応の指導が必要になってきます。高尾山登頂を目指し、チームメンバーのひとりの役割を望む人とはあきらかに違ってくるんです。そこをすみ分けないと人材育成はうまくいきません。何より本人の気持ちを第一に育成することですね」
さまざまな苦難を乗り越えてきた秋葉さんが、最後に働くすべての人へエールを贈ります。
「仕事や生活に苦しむ人が少なくないでしょう。苦しみというのは、人生の途中経過に過ぎません。その先には成長や成功が待っているもの。苦しみがあってこそ、のちの日々が彩られ、幸せを感じられるんです。僕自身がそうですし、56年の人生を振り返ると、苦しかったときが一番の思い出になっています」
…
一代でスーパー「アキダイ」を成長させた秋葉さん。テレビ出演で有名な名物社長はいかにして生まれたのか。きっかけは高校時代のバイト。口下手を克服しようとしたことがきっかけだったそうです。
PROFILE 秋葉弘道さん
あきば・ひろみち。アキダイ社長。1968年生まれ。1992年、スーパー「アキダイ」創業。青果のほか精肉や鮮魚、一般食品も扱う。現在、飲食店など含め全12店舗を経営。2023年3月、OICグループの傘下となる。
取材・文/百瀬康司 写真提供/秋葉弘道