「何の役にも立ってない」悔しさの中で聞いた父の言葉

── 反響はいかがですか?

 

鈴木さん:販売前に、同期などCAさんに履いてもらって、使用感をフィードバックしてもらいました。長時間のフライト後でも「足が臭わず快適だった」という声を多くいただき、ひとつ自信になりました。いまは大手航空会社の社内でも販売しています。ネットのレビューも非常に評価が高く「コスパがいい」「足の悩みから解放された」というお声をいただき、開発者としてはやっぱりうれしいですね。

 

奈良県にある鈴木靴下の店舗ではくつ下や手袋など米ぬか製品を販売

── 3代目として頼もしい活躍で、お父さんも喜んでいるのでは?

 

鈴木さん:そうですね。でも、当初は父の助けになりたいと強い想いで実家に戻ったものの、何の役にも立たなくて、工場の裏で叫び続けた日々がありました。周りを見渡せば、同世代でメキメキ頭角をあらわすいろいろな跡継ぎもいて、すごく焦っていたんです。そんなときに支えになったのが、父の「焦らんでいい。ホームランなんて人生に1回打ったらいい」という言葉。それがあったから「よし、自分らしく頑張ろう」と思うことができました。いいことも悪いこともすべての経験がきっと実になるから、焦らずいまの自分にできることを精一杯する。いまの自分を楽しむ、自分をもっと好きになる。それはいまも自分自身に言い聞かせています。

 

 

社会人になった子どもが親の事業の苦境を目の当たりにしたら、助けたいとは思うものの、違う業種だと知識もなく、力になることは難しいでしょう。それでも、鈴木靴下の鈴木みどりさんはCAの職を辞して、父親を支えようと決意。父の葛藤を知っていたからだそうです。

 

PROFILE 鈴木みどりさん

すずき・みどり。奈良県生まれ。日系航空会社でキャビンアテンダントとして約3年間勤務後、家業の鈴木靴下へ入社。父が開発した「米ぬかソックス」の普及に尽力。また元CAのキャリアをいかし、「Flight Stockings(フライトストッキング)」を開発し話題に。

 

取材・文/小野寺悦子 写真提供/鈴木靴下