「九州男児」にはなれなかったけれど

コロッケ
常に周りを笑顔にさせるコロッケさん

── コロッケさんは熊本出身ですが、「九州男児になりきれなかった自分がコンプレックスだった」と過去には感じていたことを自伝『母さんの「あおいくま」』では書かれていました。コロッケさんが考える九州男児とは?

 

コロッケさん:僕は昔から、威張っている人を見ると「やだな」って思っちゃうんですよ。今はわかりませんが、僕が子どものころの熊本では、年輩の男性がやけに威張っていたり、奥さんや彼女のことをちょっと小馬鹿にして「でも俺はすごいだろう」と偉そうに振る舞う人を日常生活でよく見かけたんですね。「男は女の影を踏むな」という言葉もよく聞きました。女だから男の後ろを大人しくついてこい、という考え方ですね。僕にはそういう考え方がカッコいいとはまったく思えなかったし、わが家では父親役を兼ねていた母親がすごく強い人だったので、そういう九州男児像がわからなかったんですよね。母は子どもたちがいじめられたとき、いじめっ子の家まで行ってハキハキと文句を言うような人でしたから。

 

だから、「こういう大人にはなりたくない」という気持ちと、「なぜ自分の隣にいる人をバカにするんだろう?」というわけのわからなさがずっとありました。でも大人になり、僕と同じく熊本県出身の俳優・勝野洋さんと知り合ったことで「僕が理想とする九州男児だ!」と考えが変わったんですよ。

 

── 勝野洋さんは刑事ドラマ『太陽にほえろ!』から「リポビタンD」のCM、大河ドラマなどで活躍されるベテラン俳優です。

 

コロッケさん:勝野さんは「自分の家族を守るためなら命を賭ける」と常々公言されるような方なのですが、すごいのはそれが言葉だけじゃないところです。もう数十年前ですが、舞台の打ち上げでご一緒したときに結構大きな地震が起きたんですよ。そのとき、勝野さんは揺れが来た瞬間に立ち上がって、すぐさま「子どもたちはどこだ?」と探しに行き、腕に子どもらを抱きかかえながらさっとドアを開けて、いざというときに皆が逃げられるように出口を確保してくださったんです。普通は「おお、揺れたね」とか、「大丈夫だった?」くらいの反応で終わるじゃないですか。でも勝野さんは、すぐに幼い子たちの安全を確保しに走った。もう、なんてカッコいいんだろうと震えましたね。僕が理想とする九州男児ってそういうことなんです。

 

 

ものまね芸人として活躍するいっぽう、ボランティア活動を30年続けているコロッケさん。東日本大震災の直後も、いち早く被災地支援に乗り出しました。炊き出しボランティアをする最中、「笑い」を求める声に一瞬迷いもあったそうですが、「久しぶりに笑ったわ」という観衆の声を励みに、各地の被災地をまわり、延べ1万人以上の方とお会いしてきたそうです。

 

PROFILE コロッケさん

ころっけ。1960年、熊本県出身。80年、NTV「お笑いスター誕生」でデビュー。300種類超のものまねレパートリーを誇り、ものまねタレントとして芸術文化の振興に貢献したと功績が認められ、2014年に文化庁長官表彰、16年に日本芸能大賞を受賞。芸能活動のかたわら、震災被災地や子ども食堂の支援活動も精力的に行い、12年には防衛省防衛大臣特別感謝状を授与される。

 

取材・文/阿部花恵 写真提供/コロッケ