「さんまさんからもらった言葉」がいまも頭にある
── 発想がポジティブでいらっしゃいますよね。でも、顔が知られているので、声をかけられたりしませんか?
加藤さん:思いきりバレますね(笑)。「ギャグをやってください」なんて言われますが、仕事中ですし、周りに迷惑がかかるといけないので丁重にお断りをしています。ただ、そんなに驚かれたりはしません。たとえば、超売れっ子芸人が来たら「なんであなたが?」と言われるのでしょうけれど、世間の方たちも「なるほど、生活のためにこういう仕事もやってるんだね」と察してくれるようで、温かく見守ってもらっています。
── 副収入を得るためなら、YouTubeチャンネルを始めるといった方法もありますが…。
加藤さん:昔から人と違うことをやりたいタイプで、みんながワーッと行くところが苦手なんです。だからYouTubeはやらないですね。昔、明石家さんまさんが「芸人を目指すなら人と違うことをやるほうがいい」とおっしゃっていたのが、ずっと頭にあります。
現に、芸人で消防設備士の仕事をやっているのって、僕ぐらいだと思います。おかげで、全国の設備会社の講演会や防災のイベントに呼んでいただくことも。防災系のイベントは、参加率がかなり低いらしいのですが、芸人が防災の情報を伝えることで興味を持っていただけるのか、たくさんの方にご参加いただいているようでありがたいですね。こうしたことは最初から狙っていたわけではないのですが、ニッチなジャンルに参入したことで「芸人×消防設備士」というユニークなキャリアになり、結果的に正解だったなと思います。
── イベントでは防災設備の使い方などのレクチャーをされることもあるのですか?
加藤さん:防災の設備って、どこをどうすればいいのか、いざというときにとまどってしまいますよね。実際、火災が起きても、消火栓や消火器などの設備は結局、使われずに終わることがほとんどなんです。たとえば、火災を知らせる「消火栓」を開けると、ホースが出てくるのですが、こうした防災設備の使い方を知っている人は決して多くありません。せっかく命を救えるものが目の前にあるのに、使い方を知らなければ意味がありません。自分や大切な人たちの命を守ることにもつながるので、ぜひ防災訓練やイベントに参加して、防災機器の正しい使い方を知ってほしいですね。
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消防設備士の資格を活かした副業をこなすザブングル加藤さん。2023年には、宅建やFPの資格も次々と合格します。本業のお笑いと副業の仕事に加えてさらなる資格の勉強。あまりに過酷な生活のように思えますが、「資格勉強はお笑いに比べ、結果が必ず出て努力が報われるという優しい世界です」と、語ってくれました。
PROFILE ザブングル加藤さん
ざぶんぐるかとう。1974年、三重県出身。1999年に松尾陽介とお笑いコンビ・ザブングルを結成。2007年に『M-1グランプリ』で初の決勝進出を果たし、6位入賞。21年3月に、相方の芸能界引退に伴い、コンビを解散。以降、ピン芸人として活動。多くのバラエティ番組に出演するほか、俳優としても活躍。20年に消防設備士試験に合格し、消防設備の方面でも精力的に活動している。
取材・文/西尾英子 写真提供/ザブングル加藤