産後はキャリアに対する不安を拭えなかったけど
── さまざまな葛藤や育児ノイローゼを経験した小野塚さんですが、20年12月に長男を出産された後、2か月後にはフリーライドの大会で復帰し、優勝しました。育児と並行する多忙な中で2か月というスピード復帰を決断したのはなぜでしょうか。
小野塚さん:産後はホルモンバランスが崩れてイライラすることが多々ありましたが、そんなときも早く復帰したいという気持ちに支えられていました。雪上にいるときだけは育児や家事から離れられるし、精神的なバランスが保てていると感じます。
ただ、当時はそういったバランスを取るためにスピード復帰したんですが、もう少し休めばよかったかなと後悔することもあって。帝王切開での出産でしたし、復帰直後は気づかなかったんですが、産後何年か経って頭痛や体が痛いなど原因不明の不調も感じるようになり、「あのとき、そんなに焦らなくてもよかったんじゃないか」って。でも、当時はキャリアに対する不安を拭うことができなかったんですね。ポジションというよりも、唯一無二のスキーヤーでありたいというモットーは変わりませんが、雪上を離れることでスキルがダウンするんじゃないかという不安があったんです。

── 復帰戦を滑り終わった後はどのような感情がこみ上げてきましたか。
小野塚さん:もちろんうれしかったですし、「戻って来たな」という気持ちがありました。でも、体がボロボロで、あれほどフレキシブルに動いていた私の体力はいったいどこに行ってしまったんだろう!?という思いがありました(苦笑)。ゴールした後は立っていられなかったですし、息も整わないし、苦しかった。あらためて妊娠や出産、授乳で奪われる体力って大きなものなんだなと身をもって感じました。トレーニング後に感じる疲労も以前とは比べものにならなかったですね。
── 息子さんは昨年12月で4歳に。子育てのプレッシャーや睡眠時間の減少などからくる育児ノイローゼを経験された小野塚さんが子育てを楽しいと心底思えるようになったのはいつごろでしたか?
小野塚さん:いつも楽しいのは楽しいです。眠れなかったこと以外は嫌だと思ったことはいっさいなくて。なにより子どもの成長を感じられるのはうれしい瞬間です。スキーのトップシーズンに入って、1週間や10日間会えない間にできなかったことができるようになっていたり、成長していることを感じられることが多々あるんですよ。どうしても私と一緒にスキーに行くと「後ろ抑えてて」とか「抱っこして」「おんぶして」と甘えてくるんですが、私の母と一緒にスキーに行って帰ってきた時にはひとりで滑れるようになっていて。少し前まで甘えていた息子が「俺、ひとりで滑れるよ」と言ったり、服のファスナーを締められるようになったり、自分でスキーを持ってスキー場に歩いていく姿を見たりすると成長を感じますね。私がシーズンに入ると一緒にいられないことが多いので、オフシーズンは子どもとの時間にすると決めています。
── 一方ではまだお子さんが小さいがゆえ、フリーライドに100%集中できる環境ではないと思います。そういう状況にもどかしさを感じることはありませんか。
小野塚さん:以前は自分のやりたいことに全力を注げていました。ただ、今は子どもと家族がいる。アスリートとして最高のパフォーマンスを発揮できる時間は限られていますが、子どもや家族との時間を大切にしながらアスリートとしてどんな表現ができるのか、それは自分自身も楽しみにしているところです。